学校日記

本番

公開日
2011/11/29
更新日
2011/11/30

校長室から

 18日に開催した第12回教育研究大会には,北海道から沖縄まで,200名を超える方にお越しいただきました。ご参加いただいたみなさんとご協力いただいた方々に,心からお礼申し上げます。
 今回は全学年のすべての授業を公開しました。
 一つ心配がありました。生徒が居眠りをしないだろうか?
 「生徒諸君,寝るな!」と放送しようかと研究開発部長に言ったら,笑われました。
 以前,秋田高校にお邪魔したときのこと。26教室も回ったのに,誰ひとり居眠りをする生徒がいません。驚きました。そのことをアセンブリで話しました。秋田高校と交流する生徒を募集したあと,廊下で会った生徒に「行かないか」と声をかけたら,「居眠りのできない学校には行きたくありません」と言われてしまいました。あらら。感心してしまいました。それはそれで,タイシタモノです。
 さて,研究大会当日。教室を回りましたが,心配は杞憂でした。寝ていた生徒も少しいましたが,寝方が上品でした。それで喜んではいけませんが,安心しました。
 25日に四校会があって,膳所高校と奈良高校の先生方と一緒に,姫路西高校に伺い授業を見せていただきました。それぞれが実に上質の授業でした。そして,まことに数少なくはありましたが,寝ている生徒がいました。失礼ながら内心ホッとしました。
 研究大会では多くのご指摘を頂戴しました。現在,研究開発部がまとめています。いただいたご指導を今後に生かすべく精進してまいります。
 本当にありがとうございました。

 22日の午後4時45分。
 ピアノは小ホールの中央にあって,少し落とした照明を受けて黒く光っていました。
 後ろと両側には暗幕。
 この小振りのグランドピアノは,そこにあるだけではただのモノでしかありません。これが楽器になるには,弾き手という条件が加えられなければならない,などというあたりまえのことを考えていました。

 客席では,演奏を待つというのには少し不相応な,しかし高校生にはありがちな,にぎやかで生意気な会話も飛び交っていました。
 「このリサイタルのために,職員会議がなくなったそうやで」
 「へえ,そうなん」 
 「いまごろ,あいつ幕の向こうで着替えてるんやで」
 「このピアノって調律してあるんかなあ」

 別に言わなくてもよかったのですが,
 「職員会議じゃなくて,2年生の担任会がなくなったんですよ」
 「そうですか。その割には先生が少ないですね」
 「ピアノは,今日のために調律したそうです」
 「そうなんですか」

 私は中央より上手側の席にいました。ここからだと手の動きが見えないなと思い,席を替わることも考えましたが,夏にコンクールに行ったときと同じ角度であったので,あのときのぞくぞくする感じを再び味わえるかと思い返して,そのまま座っていました。

 ピアニストの登場。
 感謝の言葉。曲の解説。椅子の位置を決めて,何の合図もなく手が鍵盤に向かったかと思うと,ピアノは見事な楽器に変貌し,音響のよくない小ホールは,ピアノとピアニストの音楽によって充たされました。
 時折の間。静寂をも音楽に変え。余白の美のような。
  バッハ,パルティータ2番ハ短調よりシンフォニア。
  リスト,B-A-C-Hによる幻想曲とフーガ。
  ショパン,練習曲作品25-1。
  ショパン,スケルツォ第2番作品31。

 最後のショパンはコンクールで聴いた曲でした。
 アンコールが2曲。圧巻の1時間でした。

 明るくなった会場で,2年生の生徒と話しました。
 「どうでした?」
 「すごかったです」
 「そうでしたね。言ってたとおりに,ピアノが鳴っているのか,弾き手が一緒に鳴っているのか,というような感じだったでしょ」
 「確かに」

 開演前とは違って,洗われたような,雷にでも打たれたような,神妙な表情をしていました。その場にいた誰もが興奮気味で,しかもしばらくすると,なぜか打ち解けた雰囲気になっていました。一つの出会いが何かを動かしたのでしょうか。
 上気した生徒が,目を輝かせて話しかけてきました。
 「本当にすごかったですね」

 ピアニストと話しました。
 少し意地悪な質問。
 「どの曲がいちばん好きですか?」
 「一番となると,ぼくはやはり,コンクールでも弾いたショパンですね」
 「知り合いの声楽家が,歌う曲はすべて好きになるって言ったけど,どう思う?」
 「それ,まったくそのとおりですね。いちばん好きなのはと聞かれたからショパンと言いましたが,好きでない曲は弾けないですから」

 握手をすると,普通の手にしか思えません。
 演奏の終わったピアニストは,2年生の男の子に戻っていました。

                      30号(2011.11.29)……荒瀬克己