学校日記

わかいいのち

公開日
2011/08/09
更新日
2011/08/09

校長室から

 この書は卒業生の作です。1年ほど前になるでしょうか,両手で抱えて持ってきてくれました。「もらっていただけませんか」と言うので,「じゃあ,どこかに掛けよう」と,二人で場所を探しました。
 「ほんとうにいいんですか」
 「どうしてだめなの」
 「わたしなんかの書いたものですから」
 「きっと読む後輩たちがいますよ」
 「あんまり目立つところは,ちょっと」
 「でも誰にも気づかれないところでは掛ける意味がないしね」
 「そういうもんですか」
 「そういうもんです」
 うろうろして,アトリウムの傍らの柱に位置を決めました。後日,業者が少しの工事をして掛けてくれました。
 谷川俊太郎の「やわらかいいのち」。「思春期心身症と呼ばれる少年少女たちに」という副題がついています。この卒業生は書が好きで,在学中にも半紙に書いたものを持ってきてくれたことがあります。乾いて少し凹凸のできた半紙には,「青い闇」と書いてありました。何日もかけて不安と動揺を綴った文章を読ませてくれたこともありました。
 休みがちであやぶまれましたが,進級もして,みんなと一緒に卒業しました。

 初夏,いつになるか分からないけど君のことと書のことを書いてもいいですか,と電話をかけました。
 「そんな,ほんとうですか」
 「ほんとうです」
 「なんか恥ずかしいですが」
 「嫌ならやめます」
 「いえ,うれしいです」
 「ありがとう。それで,どうしているの」
 「わたし,大学受けます。やっぱり農業をやりたいと思って」
 「じゃあ必死で受験勉強ってわけだ」
 「そうなんですよ」

 額に入れられた書の紙は,ところどころ変色しています。捨てられようとしていたものを先生に頼んで頂戴した,と言っていました。どうしてもその紙に書きたかったそうです。届けることのできる言葉と,届けることのできない言葉と。屈託のない笑顔の底で,若い人たちは時にやるせなくもがきます。

 額の掛った柱の先のアトリウムでは,いま3年生たちが文化祭の練習に余念がありません。連日の猛暑の中,Tシャツと短パンに着替えて,パフォーマンスを組み立てていっています。
 「水分摂ってる?」
 「はい」
 濡れた髪ときらきら光る汗は,まるで泳いだ後のよう。

 先日,1年間のうち1日しか学校を閉めない公立高校の先生と話しました。土日も当番制で回して自習室を開けているそうです。「大変ですねえ」と言ったら,その人は「本当に」とおっしゃいました。
 堀川は,明日から16日まで学校を閉鎖します。その間合宿に出ていく部活もありますが,生徒も教職員も,ONとOFFの切り替え期です。
                                 …… 荒瀬克己