学校日記

ピアノ

公開日
2011/08/23
更新日
2011/08/23

校長室から

 20日土曜日,御所の西向かいにある府民ホールで開催されたピアノコンクールに行きました。前半が終わった後の休憩時間にホールに入ると,ちょうど調律をしているところで,光を落とした舞台の上の,調律師の手慣れた仕事振りを眺めていました。できないことは数多ありますが,これも私にはできません。
 調律が終わって,木の舞台にはグランドピアノだけが立っています。塗り込められて光沢を放つ黒い楽器は,周りを圧するような存在感があります。機能美の存在感。その性能がもっとも有効に発揮されるために出来上がった形にのみ許された美しさ。素材の組み合わせによる長さや厚さや重さと直線や曲線や角度や質感。その一つでさえも違ったとしたらそうはならない,これでしかないという形の美しさ。
 以前から不思議に思っていたのは,グランドピアノの脚。たった3本の,まるでサラブレッドのような華奢な脚。ピアノは,移動用の金色の車輪の接地面だけで支えられています。その上の車輪の軸受けにもピアノの全重量がかかっています。その金色のあまりにも重い一線なり一点なりを思うと,胸のあたりが詰まるような感覚になります。
 今回不思議に思ったのはピアノの位置。舞台中央のやや上手側に置かれていました。鍵盤側の2本の脚は舞台の中心線より左になりますが,バランスとしては右に寄っています。演奏者が中央にくるためかとも思いましたが,椅子に座ると舞台の中心には近いけれど,やはり演奏者は舞台中央の下手側になります。
 チャイムが鳴って演奏が始まり,順に晴れやかな衣装で登場する弾き手たち。椅子の高さと位置を決め,ピアノの前に座って,その後少しの静寂。そして静かに,あるいは激しく動き出す,腕,体,足先,表情,視線……弾き手は別世界の存在になって,人がピアノを弾くのか,ピアノが人を弾くのか,ピアノが鳴っているのか,人が鳴っているのか,思わず眩暈を感じるほど。手はすでに鍵盤の上を駆け過ぎているのに音はそのまま続いて,瞬間,弾き手もピアノも息を止めて空白の間をつくって,10本の指が触れる88の鍵盤が,ピアノを震わせ演奏者を動かし,その流れるような音と動きの中で,脚先の車輪は光を受けていよいよ金色に輝き,弾き手は腰さえ浮かして大団円へと向かって,そして演奏が終わった後のしじま。すべての力と技術を尽くしきって立ち上がった挑戦者に拍手が送られ,それを合図に聴衆も再び我に返ります。
 人が中心に座れば,ピアノが従となり,ピアノを中心に置けば,人が従となってしまう。舞台の正面中央にもってくるのは,鍵盤の奥にある緊張した弦を,指の動きでハンマーが音に変え,人と楽器が重なり合い交じり合って音楽が生まれる場所でなければならない。ピアノと人とが,互角に格闘して音楽を創るところが舞台の中心でなければならない。だから,ピアノはあの位置にあるのだ。そんなふうに思いました。
 6人の演奏を聴いて,審査の発表前にホールを出ました。ロビーに出るところで,先ほど出演していた2年生の男子生徒が追いかけて来ました。
 「今日は来ていただいてありがとうござました」
 「いや,こちらこそありがとう。でき具合はどうでした?」
 「80パーセントくらいです」
 「そうですか」
 「本番は,練習よりも上にはなりませんから」
 「すごいことを言いますね」
 「そうですか」
 「ピアノには消しゴムがないって言った人がいたけど,それも印象的でした」
 「確かにそうですね」
 さっき舞台の上でピアノと格闘していたとは思えない,屈託のない表情と声。
 「君,ニキビが二つ三つあったら似合いそうですね」
 「は?」

 その後,本能館へ。自治連合会の「本能夏まつり」です。オープニングセレモニーに吹奏楽部が出演します。近くでタクシーを降りたら,演奏が聞こえてきました。会場の芝の緑が柔らか。特設舞台の上ではオレンジのポロシャツが揺れ,楽器がリズミカルに光っています。お世話になっている,顔なじみの自治連合会のみなさんに挨拶したり,海外留学から帰ってきた,近所に住む卒業生と言葉を交わしたりして,副校長に後を頼んで学校に戻りました。
 午前中からアトリウムで文化祭の練習していた3年生たちは,もういませんでした。部活で来ていた教員から練習試合に勝ったという話を聞いて,「本番は練習よりも上にはならないってピアニストが言ってたよ」。「え,それって,勝ててよかったということですよね」。「まあ,そうやね」。
 午後10時頃に,コアSSHの事業として北海道で探究合宿をしていた中高生40人が帰ってくることになっています。出迎えをしてくれる教頭の机にメモを置いて,打ち合わせがあるので外に出ました。
 11時過ぎに教頭からメールが届いて,「全員無事帰宅」。
 みなさん,今日も一日お疲れさま。

 27日土曜日に,探究科の学校説明会を行います。全体会場のアリーナには空調設備がありません。小さなうちわと水をご用意しますが,暑いですのでくれぐれもご注意ください。
 生徒たちとともにお待ちしています。
                          2011.08.23…… 荒瀬克己