『南風、吹かせ!』〜Hot wind from Mukaijima〜
- 公開日
- 2016/12/14
- 更新日
- 2016/12/14
校長室から
「不屈の魂」
百田尚樹氏のベストセラー『海賊と呼ばれた男』が、岡田准一さん主演の映画となって公開され、早くも大ヒットしていると聞きます。約2年前、この小説が書店の店頭に平積みされていた時、その帯には確か“劇画化決定”と書かれてありました。戦前から戦中、戦後という時代背景と、苦労を重ねつつも世界へ向けて活躍する主人公のエネルギーと壮大なドラマ性が気に入って『この小説が映画化されたら面白いだろうな』と考えていたことを覚えています。
また、今は『海と月の迷路』という大沢在昌氏の小説を読み始めています。警察小説で時代は昭和34年、場面は長崎市の通称「軍艦島」です。この小さな島で起こった事件を一人の若い警察官が追うのですが、何しろこの島は、当時では珍しいコンクリートの高層住宅が幾棟も建ち、人口密度は東京以上、5千人を越える人間がひしめき合って生きていました。戦後の高度経済成長期、日本の復興と産業の高度化を支えた炭鉱の島で働く人々の様子や、そこに暮らす人間の日常生活が何ともリアルに描かれており、事件の解明とともにそちらにも興味をもって読み進めています。
今なぜかこの時代の小説に心惹かれます。この時代の人々のエネルギーを見習いたいという気持ちにもなってくるのが不思議でなりません。
先日、育成学級の社会科の時間に京都市の市電の話がされていました。「校長先生は市電に乗ったことって、ありますか?」生徒に突然聞かれて「もちろん。銀閣寺道から京都駅まで2番の市電によく乗ったよ」と答え、併せて「当時は小学生が15円、中学生以上の運賃が30円だった。」と付け加えました。
今と比べたら、当時の人々の暮らしはずっと貧しかったけれど、世の中には活気がありました。あちこちから人の声が聞こえ、巷に子どもがあふれ、常に近所は賑やかでした。豊かな生活を手に入れるために高校や大学へ進学し、安定した収入の得られる職業に就きたいと皆が子ども心に思っていました。
我々は何のために生きるのでしょうか。「国の復興や経済成長のため」などと考えていたのは当時も政治家や経済界の一部の人たちで、ほとんどの国民は自らの豊かで幸福な生活を手に入れるために精いっぱい働いてきたのだと思います。
今は物質的に随分豊かになりました。福祉が一定程度充実してもいます。働かないと生きていけないという時代ではなくなりました。しかし一方で、よりよい生活を得るために貪欲に生きる人間は少なくなったように思います。『海賊と呼ばれた男』や『海と月の迷路』は私たちが忘れかけているそんな精神を思い出させてくれるのです。
今の時代、若い人たちは学習をはじめ生活を送るうえで、与えられることに慣れてはいけません。自らを鍛え、高めようとする不屈の魂をもってほしいと願っています。