学校日記

「今日の一冊」

公開日
2010/06/15
更新日
2010/06/15

校長室から

 今日、皆さんに紹介するのは「山月記」です。作者の中島敦は33年の生涯の中で、本格的に小説を書いたのは2年足らずという短い期間だったにもかかわらず、優れた作品をいくつも残しました。その代表作の一つ「山月記」は、中国唐代の伝奇小説「人虎伝」を素材として作られました。人が虎に変身してしまうという不思議な物語です。

 主人公の李徴は若くして科挙(官吏登用試験)に合格する優れた才能をもちながら、自分の至らなさから「虎」となり山野を彷徨います。ある時、旅人を襲おうとしてかつての最も親しい友と山中で出会い、今や自分はこんな変わり果てた姿になったが、しばらくの間旧友として話をしてくれないかと言い、草むらに身を隠したまま、自分が虎になったいきさつを語り始めます。「旅先で目を覚ますと、戸外で誰かが自分の名前を呼んでいた。その声を追って駈けて行くうちに、気が付くと虎になっていた、今でも一日のうち数時間は人間の心に返るのだが、その時間は日ごとに短くなっていく。」また、「これまでに作った詩をいくつか記憶にとどめているので、それを記録しておいてほしい。」と頼みました。役人である友人は李徴が吟じる詩を部下に書き取らせながら、どの詩も作者の非凡な才能を思わせるものばかりだが、第一流の作品となるためには何かが欠けているのではないかと感じていた。虎になった李徴が語り終わると、友人に向かって、「二度とここを通らないでほしい、その時完全に虎になった自分は君を襲うかも知れない。君が再び自分に会おうという気を起させないために、この恥ずかしい姿をもう一度見せるから、丘に上ったら振り返ってほしい。」と言い残しました。虎になった李徴が最後に月に向かって咆哮する場面は、李徴の絶望的な孤独と相まって、一幅の絵画のような世界を創り上げています。