子どもに自己存在感を与える
- 公開日
- 2015/05/07
- 更新日
- 2015/05/07
校長室から
「子どもに自己存在感を与える」ことについてお話しします。
「自己存在感」とは,自尊感情のことで,自分は価値のある存在だという実感です。これは,十把ひとからげでなく,個別性,独自性を尊重されるときに生じる感情です。「一人一人の存在」をかけがえのないもの(代理不可能なもの)として,大切にすることです。子どもに自己存在感を与えることは,正しい判断力と積極的な意欲を育てることにつながります。そこで,具体的な例として,ある画家の方がインタビューでお話しされていた内容を紹介します。
僕は次男坊でね。大変よくできる兄貴がいて,いつも兄弟で比較されてつらかったです。母親から『お前は勉強ができないから,お父さんの仕事をしっかり手伝っておくれ』と言われて,漁師の父親についてよく港に行ったものです。
漁が終わり片付けをしている頃がちょうど夕方になるんです。汗をいっぱいかいたあとに一息ついて,海に目をやると夕日に染まって空も海も真っ赤でした。いつのまにか,その素晴らしい景色を見ることが楽しみになってたんですよ。だから,手伝いはしんどかったけど頑張りました。
そんなある日,学校で担任の先生がね。美術の授業で,港に写生に行くって言うんですよ。授業時間だから当たり前なんだけど,周りのみんなは昼の海や港の風景をていねいに観察して上手に描いているんです。でも僕はみんなと同じように描けないんですよ。なぜかと言うと,毎日見ている夕日に染まる空と海の光景がまぶたに焼き付いてしまっているから。それで,完成した絵が昼の写生なのに,何と夕日に染まる空と海の風景画になっちゃったんです。困ったなぁと思ったんだけど,僕にはそれしか描けないんだからしょうがないと思いました。
そして,これは怒られるなぁと心配していたから,とてもドキドキして先生に画用紙を差し出しました。すると『お前すごいじゃないか!素晴らしい絵だよ!』とすごく褒めてくれたんですよ。それまで自分は何をやってもダメだと思っていたので,初めて褒めてもらってめちゃくちゃ嬉しかったです。そのとき,ひょっとしたら僕は絵がじょうずなのかなぁとすごく自信がついたんです。
これが私がプロの絵描き(画家)を目指すきっかけになったんです。
先生に限らず,大人が子どもの「ありのまま(自己存在)」を受け止めることは簡単なように思えて,なかなかできていないことが多いです。つい大人の枠組み(大人の希望・期待する行動や態度など)にはめようとして,しつけるなど指導的になりがちです。
実は,本校の学校だよりの「ライオンハート」(子どものいいところを見つける)は,子どもに自己存在感を与える取り組みでもあると考えています。目の前の子どもの様子をきめ細かく観察しながら,一人一人の子どもを尊重する接し方を心がけたいものです。
嘉楽中学校 校長 井上 浩史