松陽の風景 「カラスと人間」〜産む・育む・守る本能〜
- 公開日
- 2011/06/01
- 更新日
- 2011/06/01
校長室から
松陽の風景「カラスと人間」〜産む・育む・守る本能〜
京都市立松陽小学校 校長 牧野雅彦
これはいったい何だと思いますか。
鳥の巣です。本館の玄関の前に立つ松の木にいつのまにか一つがいのカラスが巣づくりを始めたのです。繁殖期を迎え,新しい命を産み育み守るために大切な巣をつくりました。細い枝を何度も何度も運び,編みながら優しく温かく新しい命を守る言わばスペース「育み」を造りました。その巧みな技に驚きを覚えます。そこまでなら,自然の姿のほほえましい1コマですむのですが,大きな問題が起こりました。
管理用務員のHさんは,子どもたちが気持ちよく学校生活を送れるように,また来校される方が美しい学校であると感じていただけるように,毎日校舎内を清掃しています。ある日,1羽のオスのカラスが清掃中のHさんめがけて飛びかかってきました。驚いたHさんは,とっさに身を翻し襲撃を避けました。次の日もまた次の日も,カラスは向かってきました。なぜカラスが自分に飛びかかってきたのか悩みながら,黄色い工事現場用のヘルメットをかぶり清掃作業は続きました。子どもたちに向かってこないのかという心配がありましたが,子どもたちや他の人には向かってきません。カラスが向かってくる場所が,松の木の近くで清掃している時だということが分かってきました。松の木の上部をじっくり見つめると上のほうに何か見えました。4階の会議室の窓から見ると巣が見つかりました。
オスのカラスは,自分たちの巣を守ろうとHさんを威嚇したことが分かりました。毎日,自分たちの巣の近くで作業するHさんをカラスは,不審な人物と認識し顔を覚えたのです。
そこで,役所に連絡し相談しましたが,この時期のカラスには,刺激を与えないことという返事だけでした。このまま放置できないと考え,27日金曜日の夜,若手教員数名が,長い棒を3階の会議室から突き出して巣を枝から落としたのです。
落とした巣を手に取りじっくり見ました。親鳥がせっせと巣づくりに東奔西走し,一本一本細い枝を編み,柔らかで温かいスペースをつくり上げていました。巣を脅かそうとする人間(実際はそうではありませんでしたが)に対して体を張り守ろうとしたカラスの姿に何か心に響くものがありました。自分よりも何倍も体の大きな人間に向かい,自分にとり大切なものを必死で守ろうとする本能。日本人は,家族のために自分の命を盾にして守ってきた歴史がありました。現代の私たちが失いつつある本能を,カラスの襲撃から気付かされた思いです。
今後カラスがどのような行動に出るのかは分かりませんが,松陽校の敷地内で起こったできごとからお話ししました。