学校日記

第40回卒業式 式辞

公開日
2020/02/28
更新日
2020/02/28

校長室ウェブログ

               式 辞

 早春の輝く光が鴨川の水面にあたり、新しい季節が始まる息づかいを感じる今日の佳き日、3年生の巣立ちの日となりました。

 本日、京都市教育委員会をはじめ、PTA役員の皆様、並びに平素よりご支援をいただいております美工交友会、京都パレスライオンズクラブ、銅駝自治連合会よりお越しくださいましたご来賓の皆様、そして多数の保護者の皆様のご臨席を賜り、第40回京都市立銅駝美術工芸高等学校卒業式を挙行できますことを、心より感謝し、教職員を代表いたしましてお礼申し上げます。

 先ほど84名の生徒の皆さんに、卒業証書を授与いたしました。卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。美術専門高校での3年間の学びを全うし、ここに晴れて卒業の日を迎えられたこと、心よりお祝いいたします。保護者の皆様、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。お子様は本校で確かな力を身につけられ、立派に成長されました。この3年間、本校の教育活動に深いご理解と温かいご協力を賜りましたこと、高い所からではございますが厚くお礼申し上げます。

 さて卒業生の皆さん。皆さんは明治13年、1880年に創立された京都府画学校以来140年の歴史と伝統をもつ美術学校の卒業生として、社会に巣立ちます。その誇りと大きな志をもって、それぞれの新しい道を歩み始めてください。

 今年は東京でオリンピックが開催される年。今回の東京オリンピックでは、国内外で活躍するアーティストが制作したオリンピック12作品、パラリンピック8作品が公式ポスターとなっています。作者は画家、漫画家、書家、写真家、美術家、グラフィックデザイナーなど多様で、国際性や多様性、伝統や革新、継承、前進、挑戦など現代における様々なテーマを込めた作品となっています。スポーツの祭典とつながったアート作品は、現代社会について問いを立て、これからの方向性を探るメッセージを発しているのです。

 私たちは、今、大きな社会の変革期にいます。「予測不可能」な時代、変化のスピードはこれまでと比べものにならないと言われています。高度に情報化・自動化が進んだ「Society5.0超スマート社会」と言われる時代は、人工知能AIが発達し、人間の様々な活動をAIがとってかわり、人間が調べたり、考えなくても最適解を出してくれる時代。しかし、人が考えなくてもよい、できなくてもよい、答えを待てばよい、それで幸福な社会が築けるのかという問題提起もあります。昨年の紅白歌合戦では、昭和の時代に活躍した歌手・美空ひばりさんのアンドロイドが登場し、本人が亡くなって約30年、生前の歌声を学習させたアンドロイドが新曲を披露するという場面がありました。AIによって亡くなった歌手の新曲が聴けるということに驚きの声が上がる一方で、私のように違和感を覚えた人もいました。歌手としての人生を生きてきたその人自身が、思いと感情をこめて、体から湧き出る声で言の葉一つ一つを、曲にのせて人に届ける、それが美空ひばりさんの歌ではないのか。AIによってこれまで不可能であったことが可能になり、社会課題が解決することに期待しつつ、AIでは不可能なことがあることを忘れてはなりません。

 プランニングディレクターの西村佳哲(にしむら・よしあき)氏は、もの作りに関わる人を訪問し、働き方について考えたことを『自分の仕事をつくる』という書物に著しています。服飾デザイナーのアトリエを訪ねた際、壁面が小さな引き出しで埋め尽くされていて、世界中から集めてきた布や糸が色別に納められていたそうです。素人目には同じ色にも見えかねない繊細な色味を見分けながら制作するデザイナーのものづくりの姿勢を紹介しています。また、グラフィックデザイナーで1ミリの間に十本の線を引ける人を取り上げ、コンピューターなら簡単なことであっても自分の手でやるためには、呼吸の刻み方、集中力、身体全体の骨と筋肉の制御、中心の取り方など高度な身体感覚が必要で、身体に刻み込まれた美意識に尊い価値がある、と述べています。

 卒業する皆さんに、まず伝えたいこと、それは、皆さんが、本校で磨いた五感で感じること、「観る、感じる、考える、表現する」ことで鍛えられた皆さんの豊かな力を、これから大いに発揮するとともに、その営みをしっかり継続してほしいということです。

 武蔵野美術大学の板東孝明教授と深澤直人教授が書かれた『ホスピタルギャラリー』という書物を読みました。徳島大学付属病院の院長から、患者や見舞客、病院職員のことを考えた環境を病院内につくりたいという依頼を受け、それを実現した経緯が書かれています。わずか数10秒で通り過ぎる10メートル足らずの空間。壁面だけに作品を飾るのではなく、空間そのものをギャラリーにする。「様々な人の気持ちに深くかかわりすぎず、しかも愛があって、決して強い主張のあるものではなく、できるだけニュートラルな自分の気持ちをシンクロしたいときだけ響いていくようなそんなアートを持ち込むギャラリーに変えたい」、そう考えた教授は、武蔵野美術大学の形態論を学ぶ学生の作品を展示しました。「針金で描く日常」というテーマでは、針金でインスタントラーメンや漫画本が造形され、「手」というテーマでは、ミカンの皮や葉っぱの葉脈を使って「手の本質」に迫る作品が並ぶ。ギャラリーを鑑賞した人のコメントを読むと、学生の観察、感性、思考の中から生まれた作品が人の心を揺さぶり、気持ちを変容させてエネルギーを生み出させている、そのことがわかります。アートの営みは、作品ができた時に完結するのではなく、テーマを立て制作している間も、完成した作品を他者が鑑賞したり、受けとめてからも力を持ち続けます。

 東京芸術大学美術館長の秋元雄史(あきもと・ゆうじ)氏は、『アート思考』という書物の中で、アーティストは、「炭鉱のカナリア」のように、まだ多くの人が見えていないものをいち早くその目で見て、聞こえていないことを聞きながら言語としては表現しようのないものを形やイメージに置き換えて伝えている、今後はそうしたアーティストのような思考法が新しい価値を生み出し世界を変えていく原動力になる、と述べています。

 私は、皆さんが制作した作品を通じて、色やカタチについてもっていた固定観念を覆されたり、普段意識していなかった視点について多くのことを教えてもらいました。皆さんがものをしっかり観察し、自己について、人について、社会について深く思考し、対話し、創作してきた姿は輝いていました。本校での学びを通して、その様に頼もしく成長した皆さんは、本校の誇りです。これからの予測不可能な社会は、答えを待つ、探すというよりもまずは問いを立てる力、その問いと向き合い人と対話し、粘り強く人だからこそ可能な解決策を導きだしていく力が求められます。いよいよ卒業です。未来に希望を創りだす担い手として、皆さんの力と可能性に大いに期待し、式辞といたします。


令和2年2月28日

           京都市立銅駝美術工芸高等学校長 吉田 功