一時
- 公開日
- 2009/09/10
- 更新日
- 2009/09/10
校長室から
今朝,学校の周りを歩いていると,ムクゲに止まるクロアゲハ蝶に気づいた。ちょっと高いところだったが,下から見て,かろうじて羽の脈打つ様子が見られる。すると,ふと国語の教科書に載っていた『少年の日の思い出(ヘルマン・ヘッセ 高橋健二訳)』を思い出し,早速学校に帰り,読み返してみると,「……ひなたの花に止まって,色のついた羽を呼吸とともに上げ下げしているのを見つけると,……」とあるではないか。なにか,主人公の僕になったような,得も言われぬ気持になり,最後まで読み続けた。
クジャクヤママユを盗んでしまう僕の行為は非難され得るべき行為ではあるが,今朝見たあのクロアゲハ蝶の光を通して透けて見える羽の脈の様子に,主人公の僕の気持も客観視できない思いにかられ,不思議な気持ちであった。そして,小説は,「……ちょうを一つ一つ取り出し,指で粉々に押しつぶしてしまった」で終わっている。主人公が蝶との決別をした少年時代から,僕が客として,けがれた思い出を語るまでの空白の何十年もの間,どのような思いで暮らしていたのか,この独白で一旦けじめがついたのだろうかなどと,いろいろと思いを馳せることができ,想像力を働かせる読書の一時を楽しんだ。