ちょっといいはなし
- 公開日
- 2012/03/02
- 更新日
- 2012/03/02
学校の様子
毎週の「いいはなし」です。
今日は「もうひとつのプレゼント」という題がついています。
〜A航空会社客室乗務員(CA)のお話より〜
Aには、お子様だけのご旅行を、出発空港から到着空港までお手伝いする「Aキッズらくのりサービス」があります。
お母様など保護者の方に出発地の空港まで見送りに来ていただき、お預かりして飛行機にご案内し、到着時の空港に迎えに来られた保護者の方にお引き合わせするというサービスです。
夏休みの国内線ともなると、祖父母宅や親戚宅に向かうため、多くのANAキッズが搭乗します。
ある日のことです。
いつものようにAキッズのバッジを胸に付けたかわいい子どもたちが、勇ましく乗り込んできました。
お休みのたびにこのサービスを利用しているなどで、乗り慣れている子どももいれば初めての一人旅で、心細そうな、今にも泣き出しそうな顔をしている子もいます。
どの子も親ごさんと離れているため、やはり少し緊張気味なので、
「はい。みなさん。こちらを見て下さい。座席ベルトはこのように締めて下さい。外す時は、このようにしてくださいね」
と、一通り説明してから、一人一人に確認に回り、離陸準備をしています。
いよいよ出発となると、ワクワクして目を輝かせます。あちこちで興奮した声やおしゃべりする声も聞こえてきます。
そんな中、なんとなく話しかけにくいオーラを醸し出している男の子がいました。周りの子も空気を感じてか、話しかけていないようです。
「緊張してる?大丈夫?さあまもなく離陸よ、空の旅を楽しんでね」
と彼の肩をやさしくポンとたたきました。
彼ははっとして、私を見、かぼそい声で「はい」と返事をしました。
初めて彼の声を聞いたような気がしました。
その日はとてもいいお天気で、窓の外には美しい雲海が広がっていました。
地上では表情のかたかった子も、「おー」「スゴイ」「きれい」などと歓声を上げています。しかし、先ほどの男の子だけは窓の外を見ることもなく、乗り込んだ時と同じ、暗い表情のままでした。
「なんか事情があるのかしら」とさりげなく観察していると、その子の左手が何かを握っていることに気づきました。
目を凝らして見たところ、どうやらチェーンのようです。
「ペンダントか何かのチェーンかしら?」
近くに行くと、小さな指の隙間からペンダントらしき物であることがわかりました。
「ペンダント持っているの?素敵ね。誰のお写真が入っているの?」
そう尋ねたのですが、さらに握り拳は固く強く握られてしまいました。よほど大事な物なのでしょう。
「ごめんなさい。お姉さん、変なこと聞いちゃったかな。気にしないでね、そうそう間もなく富士山が見えますよ」
と声をかけました。そして、ANAキッズのみなさんに向かって、
「ほーら、間もなく富士山よ。山のてっぺんに雪が少しかかって、とってもきれいでしょう。みんな、見える?」
とお話ししながら、通路側に座っていたあの男の子をドアの窓まで案内しました。
「ほらね、きれいでしょ。こんな富士山、なかなか見られないのよ。みんながいつもいい子だから、神様からのプレゼントね。お姉さんもみんのおかげでラッキー」
とオーバーアクションをしながら、
「富士山は日本でいちばん高くて、大きな山です。こんなにきれいに見えたみんなは、富士山みたいに心の大きな人になれるからね」と付け加えました。
「はーい」
「うん」
そんな返事が聞こえてくる中、先ほどの男の子が小さな声で話しかけてきました。
「ねえねえ、お姉さん、神様からのプレザントって一個だけなのかな。僕、もう一つだけでいいから神様のプレゼントが欲しいんだけれど・・・」
「え?」「何?」「何が欲しいの?」
話しかけてくれたことがうれしくて、私はすぐに聞き返しました。すると彼は、
「あ、やっぱりなんでもないや」
と言って下を向き、また口を閉ざしてしまいました。
その後もいろいろなお話をしてみたのですが、彼はかすかに笑うことはあっても、心は閉ざしたまま。結局、神様から何が欲しいのか、口にすることはなく聞くことができませんでした。
数日後、男の子のあばあさまから一通のお手紙が届きました。
「先日は孫が大変お世話になりました。
元気のない孫にいろいろと話しかけてくださったとのこと、ありがとうございます。
実は、あの子は先日、両親を交通事故で二人とも亡くしてしまったのです。
兄弟も誰もいない孫は、私のところで暮らすべく、初めて飛行機に乗ったのでした。
私が空港で迎えた時『大丈夫だったかい?』と聞くと、
『とってもきれいな富士山を見たよ。神様のプレゼントなんだって』とか、
『お姉さんがいっぱい話してくれたので、寂しかったけど涙が出なかったよ』って、
うれしそうに言っていました。
寂しくてたまらないはずの孫に楽しい思い出と元気をくださり、本当にありがとうございました」
涙がこみ上げてきました。
そして、ただ元気にさせようと、張り切っていた自分が情けなくなりました。
ペンダントの中身は、きっとニコニコ顔のご両親だったのでしょう。自分も写っている
家族写真だったかもしれません。
あなたが言っていたもう一つの神様のプレゼントが何だったのか、今はわかります。
ごめんね。あなたの気持ちをわかってあげられなくて。一人であんなに小さい胸で悲しみ、苦しみを背負っていたのに、泣かないでえらかったね。
あなたならきっとこれからたくましく生きていけます。
神様は必ず、もう一つプレゼントをくださるはずだから。