ちょっといい話
- 公開日
- 2012/02/17
- 更新日
- 2012/02/17
学校の様子
ちょっといい話し
〜空の上の出来事〜A航空会社客室乗務員(CA)のお話より
団体のお客様の中に60歳を過ぎていると思われる白髪の男性の方が目に留まりました。
グレーのベレー帽がお似合いの物静かな方で、胸のバッジから団体のお客様とわかりましたが、同じ会の皆様とは、雰囲気が少し違っていました。どことなく寂しげでこれから旅行するというのにウキウキした感じがありません。
ふと見ると、手にもう一つ帽子を握っています。
お連れ様はいらっしゃらないようですし、なんとなく不自然な感じがしたので、ゆっくりおくつろぎいただくためにも、
「そちらのお帽子、よろしければ物入れにお入れいたしましょうか?」と声をかけました。すると、少しびっくりなさったようでしたが、
「結構です」とのお返事。よく拝見すると、その帽子は女性物のようです。
「お連れ様がいらっしゃるのですか?よろしければ隣のお席が空いておりますので、お声をかけてまいりましょうか」ともお伝えすると、
「いいんです」と、今度は少し不機嫌な表情に。
「大変失礼いたしました。どうぞ、ごゆっくりおくつろぎください」
余計なことを言ってしまったと反省し、その場を失礼させていただきました。
お食事前にお飲み物をサービスする際、その方のもとに伺いました。
同じ会の他のお客様同士は会話がはずみ、とても楽しそうに盛り上がっているのですが、やはりなんとなくつまらなそう、というより、なんとも悲しそうな顔をされています。
お出かけ前にご家族と喧嘩でもしたのかしら・・・、様々なことを想像しつつご注文を伺うと、「白ワインをください」とのこと。
「はい。かしこまりました。白ワインでございます」とおつまみとワイン、プラスティックカップをお渡しすると、
「ありがとう。コップをもう一つください」とおっしゃいます。
「はい。かしこまりました。コップでございますね」と、もう一つお渡しすると、
「ありがとう」
初めて私の目を見て答えてくださいました。
ウイスキーを飲む時のチェイサーみたいにお水でもお入れになるのかしらと思い、「お水はよろしいでしょうか」と一言添えました。
「いえ、結構。ありがとう」そう言ってワインをそれぞれに注がれ、両手で二つのカップを合わせて乾杯をなさったのです。
もしかしたら、と思いました。見当違いかもしれませんが、
「お隣の席が空いておりますので、どうぞお使いくださいませ。失礼致します」
とその方の隣の席のテーブルを出し、その上にもおつまみを一つ載せ「ごゆっくり」とお伝えして、その場を去りました。
飲み物サービスが一段落した頃、その方のところに伺いました。
「ご旅行お楽しみですね。香港は初めてでいらっしゃいますか」と声をかけると、
「ええ。いや、実はね・・・」
と食前酒のワインが少し効いたのか、少しお顔を赤くされながら、ポツリポツリと話してくださいました。
「旅行好きな妻と二人で行こうって約束していたんですよ。香港。それで妻の三回忌に合わせてね、申し込んだんです・・・。これはね、妻がいつも旅行の時にかぶっていた帽子なんですよ」
形見の品を持って旅行する方がいらっしゃるとは聞いてはいましたが、実際にお目にかかったのは初めてでした。なんだか目頭がジーンと熱くなりました。
「奥様は、どんなお飲み物がお好きだったのですか」とお尋ねすると、
「そうだね。りんごジュースかな」と教えてくださいました。
「りんごジュースでございますね」
お隣のテーブルにりんごジュースをお持ちして、
「どうぞ、香港までの空の旅、お二人でお楽しみください」とお伝えしました。
その方は膝に載せていたお帽子を隣の座席に置かれました。
数ヶ月後、その方からお礼状が届きました。
「客室乗務員さんの気遣いで、楽しい旅行になりました。
お忙しいのに声をかけてくださりありがとう。やはり話せる相手がいるっていいですね。
まだ話しかけられることがつらい時もあるけれど、あなたの思いやりの気持ちが伝わってきて、なんだか少し吹っ切れた感じがしています。少し強くなった気も。
今回一緒に旅をした仲間ともあれから仲良くなりました。
七回忌の時も、御社の飛行機で旅行に出かけようと心に決めています。
またお会いできますことを楽しみにしています」
☆生徒の皆さんも、相手の心を思いやる優しさを持って欲しいと感じています。