第77回卒業式学校長式辞全文
- 公開日
- 2026/03/02
- 更新日
- 2026/03/02
校長室より
厳しい寒さもようやく緩みはじめ、春の足音も聞こえてくるこのよき日に、京都市立日吉ケ丘高等学校第77回「卒業証書授与式」を挙行するにあたり、多数の御来賓、保護者の皆様方の御臨席を賜りまして、心からお礼申し上げます。
ただいま、3年次生224名に卒業証書を授与いたしました。
卒業生の皆さん、御卒業おめでとうございます。3年間の高校生活を終え、本校を巣立ってゆく皆さんに心からお祝いを申し上げます。
皆さんは、3年前、非常に高い入試の倍率を突破し、この日吉ケ丘高校に入学してきました。私も3年前に日吉ケ丘高校に校長として赴任してきました。そして、この3年間、皆さんが、「越境」をキーワードに学業はもちろん、実に様々な経験をし、大きく成長する姿を一緒に感じてきました。
今日はそんな卒業生の皆さんに伝えておきたい言葉があります。
アップルの創業者、スティーブ・ジョブスが2005年、スタンフォード大学の卒業式で語った有名な言葉です。
You can’t connect the dots looking forward; you can only connect
them looking backward.
未来を見て点と点をつなぐことはできない、過去を振り返ってはじめて点と点をつなぐことができるという意味の言葉です。
スティーブ・ジョブスは、この話をする中で、自分の生い立ちを語りました。ジョブスは本当の両親に育てられていません。ジョブスを生んだ母親は未婚の大学院生であったため子供を育てることができず、養子縁組をするのですが、その際の条件が、この子を必ず大学まで行かせてほしい、というものでした。
育ての親はその約束通りにジョブスに大学まで行かせます。しかし、彼が入学した大学は非常に学費が高額な大学であり、両親が蓄えのすべてを学費につぎ込むような状況に、彼は大学に通う意味を見出せなくなっていました。当時、ジョブスは人生で何をやったらいいのか分からず、大学でやりたいことが見つかるとも思えていなかったのです。自分は両親が必死でためたお金を浪費しているだけと思い、退学を決めました。そして通常の講義をとる必要がなくなったので、自らが興味を惹かれる授業に潜りこんだのです。それがカリグラフィーの授業でした。
当時、ジョブスが通っていた大学では、全米で恐らく最も優れたカリグラフィーの講義を受けることができました。カリグラフィーとは、文字の字体やデザインのことです。彼はその講義に潜り込み、飾り文字や文字を組み合わせた場合の配置、デザインなどを学び、科学ではとらえきれない伝統的で芸術的な文字の世界のとりことなったのです。
もちろん当時はジョブス自身、それがいずれ何かの役にたつとは思ってもいませんでした。ところが10年後、彼が最初のマッキントッシュのコンピュータを設計していた時、カリグラフィーの知識が急によみがえってきて、その知識をすべてマックにつぎ込みました。そしてそれが美しいフォントを持つ最初のコンピュータの誕生となったのです。
もし、ジョブスが大学に入学することがなかったら、また、その大学で退学を決意しなかったら、このカリグラフィーの授業に出会うことはなかったでしょう。そして、現在のようにパソコンに素晴らしいフォントが搭載されることもなかったでしょう。
そして、こう述べています。
So you have to trust that the dots will somehow connect in your
future.
だから今はバラバラに見える点、経験や出会いも、必ず将来あなたの人生の中でつながっていく。そう信じて歩み続けることが大切なのです。
同様のことを、このスピーチと同時期に心理学者のクランボルツ教授が「計画された偶発性理論」(Planned Happenstance Theory)の中で唱えています。個人の人生(キャリア)の8割は予想しない偶発的なことによって決定される、というものです。しかしそれは振り返ってみるとあたかも計画された出会いや出来事だったようにも映るのです。
一般的には、私たちは将来の目標を決めて、それに向かって必要なことをやってみようとしますが、一見、将来に必要とは思えないようなことでも、無駄だと思わず取り組んでみることが、「点」のひとつとなって将来を決定づけるものとなることも多いということです。
卒業生の皆さん、皆さんはこの3年間で「越境」を合言葉に様々な経験をしてきたことと思います。今ひとつひとつの点の意味が見出せなくても、いつか将来必ずつながる時がくるはずです。日吉ケ丘高校で培った越境マインドを持ち続け、これからも様々な挑戦を続けていってください。そうすることによって人生の中の点の数は多くなり、点と点がつながった先に、今は想像もつかないような新しい世界が広がってくることと思います。
3年前の入学式の翌日、始業式で私は皆さんに尋ねました。日吉ケ丘高校の育てたい生徒像、「世界をつなぐ越境者」を英語で表した表現を知っているかと。
Beyond the hill today, beyond yourself tomorrow
「今日は丘を越え、明日は自分を超える」
今こそ、この言葉を皆さんに贈りたいと思います。今日がこの丘で学ぶ最後の日です。この丘の上で3年間学んだ皆さんが、自分自身の限界を超え力強く羽ばたいていってくれることを期待しています。
最後に、高いところからではございますが、保護者の皆様に一言御挨拶を申し上げます。
本日はお子様の御卒業、誠におめでとうございます。高校生活を通して、お子様は立派に成長されました。これから一人の大人として、自分の意志で社会を歩んでいくお子様を、引き続き温かく見守っていただきたく存じます。また、この三年間、様々に御支援と御協力を賜りましたことに、厚く御礼申し上げます。
卒業生の皆さん、明日からは、この日吉ケ丘高校が母校となります。いつの日か皆さんそれぞれの「世界をつなぐ越境者」として成長した姿を、見せてくれることを期待いたしまして、式辞といたします。
令和8年2月27日
京都市立日吉ケ丘高等学校長
太山 陽子