車内放送
- 公開日
- 2015/06/26
- 更新日
- 2015/06/26
校長室の窓から
車内放送
有名なお話で,多くの方がご存じかも知れません。自分にとっては忘れられない大好きな話で,バスや電車に乗るたびに心によぎるのです。
その日は今にも雪が降り出しそうな寒い日でした。新宿行きのバスでは,暖房の空気が温かく乗客を包んでいました。最初は空席が目立ったバスも,進むにつれ次第に身動きがとれない状態に。さっきまで心地よく感じていた車内が,人の多さで苦しく感じられます。
そんな中,バスの後方から赤ちゃんの泣き声が聞こえます。ぎゅうぎゅう詰めの人の熱気と暖房で,赤ちゃんにとっては泣くしか方法がなかったのでしょう。徐々にバスは進んでいきますが,車内の人の数はいっこうに減りません。
あるバス停に止まったとき,バスの後方から女性の声が聞こえました。
「降ります!降ろしてください。」
赤ちゃんを抱いた若い女性でした。料金を払おうとしたとき,運転手が話しかけました。
「どちらまで行く予定なのですか?」
女性は申し訳なさそうに消え入りそうな声で答えます。
「新宿です。でも,皆さんのご迷惑なのでここで降ります。」
運転手はマイクのスイッチを入れました。
「皆さん,この若いお母さんは赤ちゃんが泣いて皆さんに迷惑がかかるので,ここで
降りると言っておられます。子どもは,小さいときは泣きます。赤ちゃんは泣くのが仕
事です。どうかしばらくの間,赤ちゃんとお母さんを一緒に乗せてあげてください。」
何秒かの沈黙が過ぎた後,一人の乗客が拍手をしました。それにつられるように,車内には大きな拍手が起こりました。若いお母さんは運転手に,そして周囲の人々に何度も何度も頭を下げ続けていました。