学校日記

正幸フォーメーション

公開日
2015/05/28
更新日
2015/05/28

校長室の窓から

正幸フォーメーション

 田中正幸くんは小学校3年生からバスケットボールを始めました。熱心に練習し,山梨県の中でもバスケットボールが強い高校へ進学しました。しかし,入学式の3日前,正幸くんは脳出血で倒れてしまったのです…。
4時間にわたる緊急手術は成功しましたが,右手右足が全く動かなくなってしまいました。それでも正幸くんは仲間の応援を支えに,懸命にリハビリに励みました。そのかいあって,2年生の時にはバスケットボール部に入部することができました。体が十分動かないため,試合には出られませんでしたが,一日も練習を休むことはありませんでした。試合のビデオ撮影やデータ分析など,チームのために常に精一杯働く正幸くんを,みんなは心から尊敬していました。
 高校生活最後の大会が近づきました。監督は34人の部員を集めました。
「みんな。正幸が誰よりも努力していることはわかってくれていると思う。ベンチには18名しか入れない。けれど,最後の大会,最後までユニフォームの姿で正幸をベンチに入れたいんだ。どうか,みんな承知してほしい。」
全員がうなずきました。そして正幸くんが出たときのためにと,正幸フォーメーションと名付けて正幸くんにシュートを打たせる練習を始めました。

 試合当日,チームの動きは絶好調。相手に40点の大差をつけました。監督は,正幸フォーメーションのメンバーを呼びます。そして動きを確認しました。
「交代。11番が入ります。」いよいよです。大勢の人が見守る中,正幸くんは高校生活で初めて試合のコートに立ちました。
 味方がボールを奪います。正幸くんは少し足を引きずりながら自分のシュートポジションへ一直線に走りました。メンバーの智生くんから健太くんにパス。健太くんは素早いドリブルで相手を抜き去り,両手で正幸くんにボールを差し出しました。まるで大切な贈り物を渡すように。
「シュート!」監督,メンバー,応援の声が重なります。正幸くんはボールを持ち替え,左手一本でシュートを放ちました。ボールはみんなの声に乗って鮮やかな弧を描きます。時間が止まったかのようにみんなが見守る中,ボールはすっぽりとネットに吸い込まれていったのです。沈黙を打ち破るどよめきと歓声。「やった!入った!」ベンチは大騒ぎ。飛び跳ねる者。床にうずくまる者。
全員が熱い涙を流しました。
 正幸くんだけが笑顔でした。顔をくしゃくしゃにして,左手で小さなガッツポーズを作りました。