京都市立学校・幼稚園
最新更新日:2024/05/31
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ノーベル物理学賞受賞者・天野浩先生の講演会を聴講しました!

 3月5日(木)午後3時から,京都工芸繊維大学センターホールにておこなわれました,天野浩先生講演会(昨年のノーベル物理学賞受賞者・名古屋大学教授)に,本校生4名も参加しました。(この日,1年生は海外フィールドワーク直前,2年生は学年末考査中という参加しづらい日ではありましたが,学術研究に特に深い興味関心を持つ生徒が応募してくれたものです。)
 天野先生は,「京都工芸繊維大学ベンチャーラボラトリー成果発表会」のゲストとして,本校生徒をはじめとする高校生や大学生約600人を前に,1時間にわたってお話し下さいました。

 演題は「次に受賞する人へのメッセージ」。
 講演の前半では,“ただのおっさん”がノーベル賞をとるとどうなるのかをつかみに,天野氏独特のユーモアに富んだ語り口で受賞式前後の話をされました。ノーベル賞受賞と同時に文化勲章も授章されることは,今後のために知っておいてくださいとのこと。日本の代表として授賞式に出席すべく用意した天野先生の衣装よりも,奥様の着物の方が2桁額が高く,大学に借金をして用意されたそうです。式典の期間はNobel Weekと呼ばれ,随所に細やかな工夫なされていたそうです。実際の授賞式以外にもイベントが企画され,例えば,ストックホルム科学イノベーション高校では,プログラム言語であるC言語の授業があるとか。天野先生ご本人もこれには驚いておられました。また授賞式本番では,極度の緊張から段取りを全て忘れてしまい,さらに晩餐会では,隣席のスウェーデンのシルビア王妃から語り掛けられた英語も全く頭に入らなかったとのこと。高校生,大学生の聴衆に向けて,「英語はちゃんと勉強しておくべきですよ」と,経験を踏まえておっしゃいました。
 後半では,青色発光ダイオード(青色LED)の材料として用いられる半導体,窒化ガリウム(GaN,gallium nitride)について苦労談を織り込みながら,作成できるまでの研究の過程とその専門的な内容を,非常に噛み砕いて分かりやすく話されました。
 人類の灯りの発明を歴史的に順に辿ってみれば,1878年に開発された黒体輻射の原理で発光する白熱電球は1ワット当たり20ルーメン(20lm/W)以下,1925年に開発された原子の光を実現した蛍光灯はストークスシフトの損失分により1ワット当たり80ルーメン(80lm/W)以下,そして,1999年に製品化された白色LEDはジュール熱による損失のみで非常に効率が良く,1ワット当たり160ルーメン(160lm/W)以上とのこと。ちなみに照明で用いられる白色LEDは光の三原色の原理から発光させているわけではなく,黄色の発光体と青色LEDによって白色光を作っており,壇上で実演もされました。全ての原子炉を停止させている現在の日本で,白色LED照明は省エネルギー対策の一つとして注目されており,日本の照明LED化率は2013年で50%,2020年までに70%を超えるだろうと推測されていました。
 実は,青色LEDは,1971年にソ連(当時)の物理学者ジャック=パンコフ氏が世界で初めて発表しました。当時はN型GaNを作ることはできましたが,P型GaNは実現できず,非常に高価で効率が悪いため,実用化はされなかったのです。GaNを直接作ろうとすると,45000atm,セ氏2530度の環境での生成が要求され,これはダイヤモンドを生成する環境(52000atm,セ氏1200度)と比較してもかなり困難なことです。よって,化学反応で作ることになるのですが,サファイアを基盤に生成しようとするも格子不整合の関係によりうまくいかず,試行錯誤と工夫をする毎日だったそうです。そもそもGaN作成装置は市販で買うと1億円は下らないのですが,当時の大学の研究室予算は300万円で,購入するのはとうてい不可能です。そのため,赤崎研究室では装置を手作りすることから始まりました。装置作成後は一日5〜6回の実験をしておられましたが,なかなか綺麗な結晶ができずに苦心しておられたそうです。創意工夫と新たな技術を周辺の分野や先輩からいただきながら,ようやく低温バッファ層技術の発見により,これまでよりも断然綺麗なGaNを生成することに成功されました。当時の大学での研究の様子,学会での発表の裏話や,技術を確立するに至った毎日の積み重ねなどを伝えられ,その場にいた大学生や教員,教授は大いに共感とともに,高校生は憧れや研究に対するおぼろげなイメージを描きながら聴講していました。
 このような基礎物理学の研究成果が,工業,商業ベースに乗り,今や国内問わず全世界規模で恩恵を与えています。例えば,今の学生はゲームボーイや携帯画面がモノクロだったことなど知らないでしょうが,それから10年足らずで画面がフルカラーになりました。また,モンゴル大使に喜ばれたことがあるというエピソードも紹介して下さいました。それは,白色LEDができたことで,全国民の80%が放牧生活を営むモンゴルの子供たちが,夜,勉強したり本を読んだりすることができるようになったとのことです。・・・これらは数あるエピソードの中でほんのわずかの例ですが,基礎科学研究を志す子供たちに勇気と希望を与えたことでしょう。
 最後に,聴講する我々に向けて,次のメッセージで御講演をしめくくられました。
   『一生懸命に考えること。研究テーマを見つけたら,
    それに向けてあきらめずに邁進してほしい。』

 力と熱意のこもった講演であっという間に時間が過ぎ,質疑応答の時間も十分に取れないほどでしたが,本校の二社谷一樹君(2年生)が自己紹介を簡潔に述べた後,次のようなの疑問を天野先生にぶつけました。
 「窒化ガリウムの基盤となるサファイアは宝石なのだから,地球上での存在量が少ないのではないですか。」
 講演の中で「研究費のやりくりに四苦八苦」というくだりを聞いていたので,宝石という希少で高価な物質を,何年にもわたってかなりの回数の実験に使用されていたのが疑問だったようです。天野氏からすれば,高校生が自分の基礎研究の内容を理解した上で的確な疑問を発してくれたことに驚き,また感心もしておられる様子でした。
 「先ほどの言い方では誤解が生まれたようで申し訳ない。」という前置きののち,彼の質問に丁寧にお答え下さいました。サファイアはAl2O3でアルミニウムの酸化物であり,地球上で枯渇の心配はないとのこと。それよりも手に入りにくいのは金属ガリウムなのですが,最近はリサイクルをすることで効率よく再生する仕組みが築かれていて問題はない,とのことでした。

 先生ご自身の穏やかでユーモアあふれるお人柄がにじみ出ていて,研究内容も噛んで含めて語っていただけた,将来の研究者に向けた期待と夢に溢れた講演でした。基礎科学分野の研究は本当に地味で,粘り強さと不屈の意志が不可欠ですが,それを乗り越えたところで社会に役立つ成果に辿り着くことができるのだと,改めて思いました。
 
 天野浩先生,分かりやすく,心震えるご講演をありがとうございました。
未来の研究者よ,夢と希望を抱き,ただひたすらに進み続ける強い意志を持て!

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