京都市立学校・幼稚園
最新更新日:2024/05/13
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「あふれ出てくる」ものを「言わずにいられない」自分

 19期生の予稿集の巻頭言では、泉鏡花の『夜叉が池』に登場する人と妖怪たちとの結んだ約束を人間が意識的に破っていくという話から、人の「欲」について述べた。マズローの五段階欲求の「自己実現欲求」を大切にしよう旨についてお伝えした。内的に満たされたい欲求を充足することは自然な流れであり、命ある限り私たちへの試練なのだろう。
 欲はモノに対するものと、心理的な充足欲求とがある。デジタル化が進む情報化社会の現代にあっても欲求の基本形は同じように成り立っているが、スピードとやり取りする空間が大幅に変化してきている。流れる時間のいたるところで欲を充足しようとする営みが成立する。農耕が中心となっていた時代と比べるとその差異が明確に認識される。
 江戸時代後期1800年代の『琴後集』巻十四雑文「河づらなる家に郭公(ほととぎす)を聞くといふことを題にて物語ぶみのさまにならへる文」に、以下のようなやりとりがある。
 初瀬詣でに出かけている筆者が、一夜を明かすために、ある御堂に宿をとっていた。筆者は月を愛でるために宿の横に流れている川のほとりにたたずんでいた。同宿となった別の団体の女房たちの中にも、美しく照り輝く月を眺めようと、宿の端まで出てきて月を愛でている。その様子を外に出ている筆者が目にしている。女房たちは気づいていない。しばらく月を愛でていた時に、郭公の鳴く声を聞いた女房の一人が、
「ここを瀬に鳴くほととぎすかな」
と口ずさんだところ、それに対して別の女房が、
「初瀬川波間に月もやどる夜に」
と返した。そのすばらしく趣深いやり取りを、外で聞いていた筆者は、「かかるをりに歌よまでやはあらむ、よしやうちつけなるわざも、情け知らむ人は、咎めじ」と、我慢できず、
「月見つつ寝られざりけり郭公ほのかになのる声聞きしより」
と歌を詠み、扇の端に書きとどめて、宿の中にいる女房たちの足元におし入れた。自分たちのやり取りを外で誰かが見ているとは知らずに、驚いた女房たちは、扇を手にして部屋の奥へと下がっていった。誰とも知らない人からの歌ではあるが、歌を贈られた以上、歌を返すのが礼儀であるので、女房たちは香を焚きしめた白い紙に、
「郭公月にかたらふしのび音をいづれの雲のひまもらしけむ」
と書いて扇の端に結んで、外にいる筆者に返した。筆者は自分がいきなり歌を贈るということは失礼だと知りながらも、二人の女房のやり取りの趣深い風情に我慢ができず、そして、風流を解する人たちであれば、許してくれるだろうという勝手な判断で歌を贈っている。この我慢ができない、歌を歌わないではいられない、伝えたくてたまらないという欲求は、高いレベルでの自己実現欲求である。和歌を介してのコミュニケーションのひとつであり、流れる時間の中では頻繁にあるものでもなく、絶妙なタイミングでやってくる時間と空間で成立する。そのタイミングが人と人との関わりをより深く結びつける。
 活動録においても同じく、伝えなくてはいられない魂の叫びがこめられている。書き手と読み手は直接的にはやり取りができないが、書き手の魂を読み手が受けとった時間と空間は、先のやり取りと同様、関わりを深く結びつける。

 源公忠曰く、「行やらで山路暮らしつほととぎす今一聲の聞かまほしさに」

 (19期生「探究基礎活動録」巻頭言より)


 学校長 谷内 秀一

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