京都市立学校・幼稚園
最新更新日:2024/04/27
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「美術を学ぶ」から「美術で学ぶ」学校へ。美工(美術工芸高校)は、生徒たちに未来必要な力を身に付けさせる教育活動を展開しています。

(アーカイブ2017年3月1日) 第37回卒業式 式辞

               式  辞

 鴨川の水面にやわらかな光が輝く三月を迎え、学び舎が透き通った春の気配に包まれる中、三年生の巣立ちの日となりました。

 本日、京都市教育委員会をはじめ、PTA役員の皆様、並びに、平素よりご支援をいただいております、美工交友会、京都パレスライオンズクラブ、銅駝自治連合会よりお越しくださいましたご来賓の皆様、そして多数の保護者の皆様のご臨席を賜り、第三十七回京都市立銅駝美術工芸高等学校卒業式を挙行できますことを、心より感謝し、教職員を代表いたしましてお礼申し上げます。

 先ほど、九十二名の生徒の皆さんに、卒業証書を授与いたしました。卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。三年間の学びを全うし、ここに晴れて卒業の日を迎えられたこと、心よりお祝い申し上げます。
 保護者の皆様、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。お子様は本校で確かな力を身に着け立派に成長されました。この三年間、本校の教育活動に深いご理解と温かいご協力を賜りましたこと、高い所からではございますが厚くお礼申し上げます。

 さて、卒業生の皆さん、皆さんは明治十三年、一八八○年に創立された京都府画学校以来、一三七年の歴史と伝統をもつ美術学校の卒業生として、社会に巣立ちます。その誇りと大きな志をもって、新しい道を歩み始めてください。

 私は、二年前にこの学校に着任しました。普通科高校出身で普通科高校での勤務が長かった私にとって、美術を学ぶ皆さんの姿、皆さんが制作する姿、創り上げた作品、そして美術に関して話すこと、すべてが新鮮で、心を動かされてきました。グラフィックデザイナーの横尾忠則さんは、著書の中で、「一枚の絵を完成させることが創作なのではなく、あくまでプロセスが大切で、今この瞬間をどれだけ楽しめるか、あるいは、この絵がどのようになっていくかの期待と楽しみを味わうことが面白い」「完璧を目指すのではなく、あえて未完にする。未完は明日に続くものだから」と書かれています。三年間を振り返ると、一人で向き合わなければならない制作活動の中で、不安やいらだちを感じ、未熟な自分に悩み苦しんだこともあったでしょう。しかし美術も、皆さんの未来も決められた終着点を目指すものではありません。本校でひたむきに取り組んだこと、悩みながらもがいたこと、人に支えられたこと、今日ここにいる皆さんのこれまでのプロセスを大切にし、自分の「明日」を創りだしてください。

 本日、銅駝から巣立つ皆さんに、二つのことをお話しします。

 一つ目の話。先にお話しした横尾忠則さんは著書の中で「絵と対話するには、既成概念をできるだけ取り除く」ことだとし、「美術鑑賞に知識も決まりもありません。夕焼けを眺めるようにしばらく絵の前に立って、胸を開けばいいのです」と書いておられます。特別な知識や評価を求められずに素直に美術を楽しめることはとても幸せなことです。私はこの学校に着任してからその幸せを実感しています。美術は、出発点は表現者、制作者という個人であっても、その作品を鑑賞する者や社会を揺さぶります。
瀬戸内国際芸術祭の総合ディレクターも務めた北川フラムさんは、新潟県越後妻有(つまり)での芸術祭に取り組んだことを著書にまとめています。過疎地域でのこの取り組みは、瞬間的に目立つ商業的なイベントではなく、その地域の環境、自然、人々の暮らしを大切に生かし、子どもやお年寄り、学生たちが参加をしました。最初様々な行き違いや困難がありながら、粘り強く対話するなかで人と人がつながり、地域と地域がつながり、地元と来訪者がつながりました。そしてこの芸術祭を通じて、日本の小さな集落が、フィリピン、香港、オーストラリアなど外国の人々ともつながりました。離れていたもの、異質なもの、価値観の異なる者が美術を通じて「つながる」。美術にはそのような力があります。北川さんは、現代は絶え間ない競争、大量消費の中で、ややもすれば一定の方向にまとめられ、均一化されてしまう。しかし、美術は「人と異なったことをして褒められることはあっても叱られることはない」「今生きる七十二億の人々の個々の生理の表れ」であると述べられています。皆さんは、美術を通じて地元地域や震災の被災地、また障害のある人や介護の必要な高齢者とつながる学習をし、ホスピタルアートについて学びました。皆さんが学んできた美術は、皆さん自身にとってかけがえのないものであると同時に、他の人々に、そして社会に、世界に、大きな力を与えるものです。そのことに確信をもって、これからも美術に取り組んでください。

 二つ目の話。二十一世紀になって、グローバル化、ITの発達が加速度的に進み、人工知能AIの登場で、今あるものは数年後には他のものに置き換えられてしまうような時代になりました。しかし、そのような時代だからこそ、クリエイティブな力、美術、アートの力が必要です。京都市立芸術大学の鷲田清一学長は「プロフェッショナルがその専門性を十分に活かすためには、専門領域の知識だけではどうにもならない」「一つの専門性は他の専門性とうまく編まれることがないと、現実の世界で自らの専門性を全うすることができない」、他の領域のプロフェッショナルと共同で課題に取り組むためには、「自らの専門についてイメージを豊かに説明すること」「別のプロの、自分とは異なった視線、異なった関心」を理解することが必要であると指摘されています。美術を専門に学び、クリエイティブな力を鍛えてきた皆さんは、その専門の力を発揮しつつ、専門の中にだけ留まるのではなく、他者に関心を持ち、他者と対話し、他者と協働していくことを怠らないでください。「対話」は「会話」とは異なり、お互いの違いや人格を認め合い、しっかり向き合いながら粘り強く相手に言葉を届け、また相手の言葉を受け取りながら、ともに考えていく手段です。変化の激しい世界の中で、対立や抗争、貧困や差別を解消し、安心と真の豊かさを実現するために、美術の専門力を発揮し、対話を実践できる人になってください。

 いよいよ巣立ちの時、皆さんの手で次の扉を開けるときです。これからの時代をどう生きるか。今、目の前にある与えられた選択肢から選ぶのではなく、ぜひ皆さんが自ら選択肢を創りだし、自分らしく勇気をもって二十一紀を生き抜いてください。この伝統ある美術高校で真摯に美術と向き合いひたむきに学んできた皆さんは、本校の誇りです。皆さんが、アートの力を信じ、豊かな対話の中で人とつながり、社会とつながり、社会を変容させていく担い手になってくれることを心より願い、式辞といたします。

平成二十九年三月一日

             京都市立銅駝美術工芸高等学校長 吉田 功

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行事予定
5/5 こどもの日
5/7 3年学科模試(河合塾)
5/8 生活指導強化週間(〜5/12)3年実技模試(授業中)
5/9 1年美術研修 検尿 3年実技模試(授業中) 3年志望理由書説明会(放課後)
5/10 検尿
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