岸本久美子先生を講師としてお迎えしての「文学歳時記」特別講演は、今年でちょうど10年目となりました。
今回の演題は、「夢の浮橋まで」。卒業式の憂いの残る校内で、「人笑へ*1」を懼れる心情を軸として揺れ動く、浮舟という女性の数奇な運命を、岸本先生の趣のある声で語っていただきました。
*1 世のもの笑いの種になること。
写真上:華やかな着物姿の岸本先生
写真下:生徒によるお礼の言葉と花束贈呈
「千年以上昔の平安時代の出来事でありながら、その心にはどこか現代と通じるところがあり、親しみすら感じられる」と生徒がお礼の言葉の中で述べましたが、世間の目を気にする風潮は、今なお私たちの精神にも留まり、日々の行動を制約し続けているかに思います。しかし、それは一方で消極的な結果を生むものの、一方では日本社会の規律を保つ大切な柱となっているのではないでしょうか。
グローバル化の時代、様々な局面に対する消極的な姿勢を指摘されがちな日本人にとって、「人笑へ」を懼れる心をどうコントロールするかは、生きる上での大きなカギになっているように思えます。そして、運命に翻弄されながらも自分の人生を自分のものとしようとして死を選ぶも、蘇生した浮舟の生き方は、現代に生きる私たちにヒントを与えてくれているように思うのです。
岸本先生は、『源氏物語』の謎めいた最後を「人生も世の中もすべてははかない夢だ」という紫式部のメッセージ、と解釈されました。
どうせ儚い夢の人生なら、その中で精いっぱい自分らしく生きたい、古代の魂を心の錘としつつも「人笑へ」なんてなんのその、そんな割り切った新しい精神で闊歩したいものです。
岸本先生、本日は本当にありがとうございました。(担当教員)