京都市立学校・幼稚園
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1月17日

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ライトアップされた東寺五重塔



 昨日は1月17日。1995年のあの日から17年が経ちました。
 朝,5時前に起きて,新聞を取りに。京都版を開けて,まず京都市長選挙の特集。16日の夕方に朝日新聞社から明日掲載するという連絡が入っていました。
 記者の方に尋ねました。
 「高校入試や学級定員などの制度に関することや,統廃合とか耐震対策とかといったことや,また,教職員や教育委員会に関すること,まさに昨日出ていましたが,国旗国歌関係の問題であるとか,教職員数のこととか,そういったことなら市長選挙の争点になるかもしれないけれど,とりわけ義務教育ではない,しかもこれだけ学校の特色化が進んでいる状況で,高校の取り組みが選挙の話題になるのでしょうか?」

 中学生がどの高校に行くかを選択する際には,その機会が平等でなければなりません。現在京都市および隣接する乙訓地区の普通科第1(本当はローマ数字なのですが,このソフトでは使えません。以下同様)類(学力充実コース)で実施されている総合選抜は,どの高校に行くかを選択しないという条件で,中学校の学習状況と入学検査の成績によって,高校入学が可能になります。しかし,この「どの高校に行くかを選択しない」ということに対して賛否両論があります。普通科第2類(学力伸長コース)や第3類(個性伸長コース),また専門学科は,すでに単独選抜(行きたい学校を受けて合否が決まる)になっています。
 これまでも普通科第1類の入試制度には変更が加えられ,特色選抜(定員の15%を学力検査なしに面接等で合否決定)や特別活動・部活動による入学者枠(定員の20%を総合選抜による合格者の中から決定)によって,行きたい学校を選べるようにしてきました。このような選抜制度は全国的に見てもわずかで,そのあり方についての検討が現在行われています。

 さて,記事は「教育モデル校」に対する賛否という構図になっていました。堀川は高校改革の「パイロット校」ですので,必ずしもモデル校ではありませんし,また,私としては高校教育がどのようにあるべきかについて話したつもりでしたが,対比ないしは対立する形を作らなければなりませんから,仕方ないのでしょう。こうは言っても,文句をつけているのではありません。記者の方もさまざまですが,今回のインタヴューは実に誠実に行われました。しかし,明示されたテーマに沿って直接議論をしたのではなくて個別の取材に基づく記事ですから,話がかみ合っているとは言えません。編集をされた方々のご苦労を思いました。
 私の1月17日は,こうして始まりました。

 朝,8時過ぎに学校へ。
 進路指導主事(進路部長)からセンター試験の集計結果の報告。全国平均予想はまだわかりませんが,堀川としてはほぼ例年どおりだろうということです。
 何人かの3年生とやりとり。「もうすでにセンター試験は過去のもの。行きたいところに行くことが基本。事情があって対応を変更するにしても,データを見てから。一喜一憂をしていないで,前を向きなさい」。

 3年生の担任と立ち話。「これからですね」。
 よかったにせよ,よくなかったにせよ,多くの生徒が揺れるこの時期。我に返ることを促すのが担任の重要な役割。

 企画会議。将来構想についての議論。選抜制度の変更があった場合,堀川はどのように対応していくか。
 「カンカンになって進めていく人が必要になりますよ」。
 もちろん,その人とは別に,冷静に,むしろ逆に批判的に意見を展開する人も。

 来年度人事異動について副校長と打ち合わせ。校内人事についても。遅ればせながら,各教職員のキャリア計画を参考にした校内人事を行うために,教職員からの提案に基づき「キャリアプラン申告書」を作成中。申告書の様式について提案者と相談。

 進路部長に,新学習指導要領実施後の大学入試センター試験について高校としての意見集約を月末の進路指導研究協議会で行うよう依頼。
 「ただし,すでに考えているカリキュラムを入試対応で変更するといったことは本末転倒。教育課程は学校の教育方針を具体化したものだから,入試対応も考慮する必要はあるが,本来どういう教育をしてどんな生徒に育てたいかということをぶれさせてはいけない」
 「わかっています」
 「『はい』だけでよろしい」
 にやりとして,
 「はい」

 英語科主任と新学習指導要領に基づく英語授業についての打ち合わせ。
 「何もかも,寝ている生徒を起こすのも,文法の説明も,すべて英語でやるように」
 「え? そうなんですか?」
 「ということが重要なのかどうか,All Englishの趣旨を正確に」
 「はい」

 メールを読み,一部に返信。電話を2本。かかってきたのも2本。

 2時間目が終わった後にやっている教職員連絡会で,センター試験集計結果報告を受けて,教職員に感謝。「結果はみなさんの尽力のたまもの」。
 さらに,「どこそこ大学に何人といった数値目標は設定しないが,センター試験は数値目標設定ができる標準的問題。目標に達しなかった教科・科目の担当者は分析を。また,標準単位数を超えている教科や習熟度別授業を行っている教科も効果測定を」。
 堀川の最高目標は「自立する十八歳の育成」。その達成のためにも,そこにつながる学力向上は第一優先事項。

 1年生の海外研修のことで,学年主任と一緒に旅行会社の方と打ち合わせ。なぜ円高が旅行費用に直接反映していないのか理由を確認。保護者への説明文書を依頼。

 朝日の朝刊を読んだという保護者から連絡。
 1月17日であったことをあらためて認識。去年の1月17日は月曜日。子息が去年,前日の日曜日から神戸に入って,慰霊の竹筒の灯を準備するボランティアに参加。少し仮眠をした後に,何食わぬ顔で登校したことを知り,感激したことを思い出す。
 奇しくも副校長が,「彼は今年どうしたでしょうか」。

 書きかけの「校長室から」を断念して食堂へ。居合わせた教員と,カレーと餃子の店についてあれこれ。後から来た教員が「生徒が新聞に校長先生が出てはったと言ってましたよ」。そのあと廊下ですれ違った教員も,「今日は朝一番に新聞でお会いしました」。

 昼休み,研修旅行委員会の生徒男女2人ずつが,旅行の冊子への原稿依頼に。
 「残念ですが,まだ実感のない人もいるので,もう目の前に迫っているぞ,というように活を入れる文章をお願いします」
 それぞれの将来の夢を聞く。
 「君たちの話を聞いて,共通して大事になることを三つ考えました。国際社会との関わりと,経済学的視点と,そして哲学。哲学というのは,自分としてどのように考えるかという軸」

 午後に洛陽工業高校である生徒指導研究会に出席するためバスの系統を確認。副校長が,「四条堀川から特13番です」。
 洛陽工業高校の恩田徹校長にこれから伺うという電話をしたら,今日は日経の佐藤編集委員の総合的な学習の時間の授業があるとのこと。副校長に,「会議に出て挨拶して,そのあと授業を見せてもらって,生涯学習部の会議に行って,今日はもう戻りません」と告げて外出。

 1時29分のバスに乗るべく四条堀川で信号待ち。お年寄りと一緒の女性が,「2年生でお世話になっている○○です。お父さん,堀川高校の荒瀬先生」。ご挨拶をしたら,「私も堀川高校。同窓会長の市田ひろみさんと同じ2期生でした」。

 バス停で待っていると,東の方から盲導犬。ハーネスに「お仕事中」,「訓練中」と書いた札。道理でビデオを回している人もいて,総勢5人。
 研修会で聞いた松永さんのお話を思い出す。「盲導犬は数が少ないから,めったに会わないと思います」。
 バスが来て乗ってからも,松永さんの声。「目をつぶるとバランスがとりにくくなります。だから,バスに乗ると怖い。立っているのは,空席がわからないから。視覚障害者を見かけたら,空席を教えて座らせてあげてください」。

 バスの中は暖か。風もなく日差しもあって春を感じさせるような。旅行者みたいな気分でいるうちに西大路駅前。
 洛陽工業高校の門を入ると生徒部長さんのお出迎え。グラウンドでは体育の授業。旧知の先生と挨拶を交わして校長室へ。隣の会議室が生徒指導研究会の会場。時間があったので少し授業を拝見したあと会議室に。
 会場校の恩田校長のご挨拶。「いろいろと問題が起こってその対応に追われることもあるが,後追いにならない,キャリア教育につながるような生徒指導を」。
 私も会長として挨拶。堀川の組織改編の予定,研究会の体制について。
 その後,3階に上がって「創造基礎」の授業見学。ティームティーチング形式。30数人の1年生たちに日本経済新聞社編集委員の佐藤徳夫氏が質問中。全員が机の上に朝日新聞を広げている。あれ,日経じゃないの? 「新聞は毎回違います。今回は先週金曜日に朝日を渡しています。今朝の先生の記事もつけましたよ」と恩田校長。見学者は,下京中学校長と,教育委員会の首席指導主事がお二人と私。

 黒板には,「何のために勉強しているの?」。そのあとに,「自立すること」,「社会のためになること」。
 阪神淡路大震災の日ということで,震災に関する授業。6時間目は佐藤氏の講義。7時間目はグループワーク。実に面白い。(詳細は,いずれ洛陽のHPに出るかと思いますが,過去のものは,
https://cms.edu.city.kyoto.jp/weblog/index.php?...
 見せてもらってよかった。「地震の影響は何県にまたがっていたか?」という佐藤氏の質問に,生徒の一人が「全国」。「全国って,そうか?」。「だって,原発の影響が……」。
 この「だって」が特によかった。自分の思いや考えを伝えようとしている。すばらしい。
 もう一つ驚いたのは,休憩時間。佐藤氏が,席から離れた生徒の椅子に座って私と話しておられたときのこと。始業のチャイムが鳴って,戻って席に着こうとした生徒の椅子には佐藤氏が着席なさったまま。するとその生徒,全く自然に,教室の後ろにあった椅子を持ってきて座った。なんと状況に応じた行動か。あとから彼を称賛したら,その照れるところがまたよかった。
 終了後,毎回あるという別室での補習に私も参加。3人の生徒が出席。佐藤氏と恩田校長と,こちらも3人でスタート。このやりとりもとても面白かったが,詳細は割愛。

 5時半ごろに大変興味深い経験をした洛陽を辞して,九条通りに沿って東へ。途中で副校長に電話。学校の様子を聞いたあと,歩いて九条大宮まで行くと言ったら,「ウォーキングですか。気をつけてくださいね」。
 冬至から間もないのに,すでに長くなっている夕方の洛南をテクテク。
 九条坊城。国道1号線の曲がり角。前方に東寺の塔が見える。携帯電話でカシャッ。あっ,ぶれた。
 大宮通りを渡って進むと,東寺駅手前に九条近鉄のバス停。九条大宮のバス停は大宮通りだったか。戻ろうかとも思ったが,よし,地下鉄京都駅まで歩こう。

 四条駅で降りて歩いていると,地下道を向こうから女子生徒。会釈する彼女らに「さよなら」,「さよなら」。
 四条通りに上がると,今度は男子生徒が二人。「さよなら」。びっくりしたのか,「あっ,こんばんは」。
 室町通りを北に曲がって気がついた。迷わずに歩いている方向は堀川高校。今から行くべき場所は富小路蛸薬師アガル。反転して蛸薬師通りを東へ。暑くなって,途中でマフラーを取り,手袋をはずし,6時半の会議の5分前に無事到着。
 人づくり21世紀委員会。会議中なにも発言せずにずっと考えていたのは,「人づくり」ってどういうことかなあということ。

 8時に会議が終わって,再び地下鉄四条駅へ。
 阪急電車のほうから地下鉄に下りる階段辺りで誰かに呼ばれたような気がして,でも違っていたら恰好悪いので,そのまま改札口に向かって歩いていたら,前に回り込むように二人の女子生徒。元気に笑いながら,はあはあと息が荒い。
 「あ,校長や,と思って追いかけて」
 「先生と言いなさい」
 「校長先生がおられると思って走って来ました」
 「何していたの?」
 「ご飯食べて,もうおなかいっぱいで」
 「走ったから苦しいです」
 「どうぞお大事に」
 少し歩いて,
 「どこまで帰るの?」
 「私は宇治です」
 「私は北大路まで。先生と近いですよ」
 「ふうん。ではさようなら」
 健康のために私は階段を。気にする必要のない彼女らはエスカレーターで。
 竹田行きが来て,一人が「さよなら」。
 「気をつけて」
 国際会館行きが来て乗り込む。夜の電車は車輪の音を響かせて揺れる。
 北大路で降りてもう一人と改札口で,「さよなら。気をつけて」。
 この飽き飽きする日常が,かけがえのないものであることを知っているかい?
 地上に出ると,夜の冷気。
 ポケットから歩数計を出して街灯にかざしてみたら,13,120歩。

 長い一日。こうして今年の1月17日が終わりました。

                      37号(2012.01.18)……荒瀬克己

センター試験

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左:1月8日,東大寺二月堂からの夕焼け   右:二月堂の常夜灯。
ふっと「西方浄土」という言葉が浮かびました。


 小寒を過ぎ,寒さが本格的になってきました。そんな中,今度の土日は大学入試センター試験です。今年の堀川は2会場で,同志社大学新町校舎と京都教育大学。
 多くの学校がなさっていますが,堀川も当日は会場前で生徒たちの受験確認と本番直前の応援を行います。今年は初めて2会場になることもあり,3年生の学年主任は準備に余念がありません。その指揮のもと,例年ですと担任を中心に20人余りの教員が,200人ほどの生徒たちが入場するのを待ちます。
 待っているからよいという訳でもありませんが,普段の調子で本番に臨めるようにという,よく言えば師匠ないしはコーチの親心,実はやや甘めの取り組みです。いつもは「不親切」を心がけていますので,その場で驚く生徒もいます。本番で驚かせては意味ないじゃないかとも思いますが,恒例なので,3年生諸君,どうぞ落ち着いて,普段の力を発揮してください。
 同志社新町校舎は新生7期生以来5年目です。同志社のみなさん,毎年お騒がせして申し訳ありません。今年は,教育大のみなさんにもお世話になります。どうぞよろしくお願いします。
 当日の朝に生徒が体調を崩したり,交通機関の遅れで影響が出たりといった不測の事態に対応するために,学校で待機する連絡係もいます。追試験を含め,具体的な手続きは個々の対応となりますが,センター試験の制度上,在校生には学校が相当に関与します。
 いっぽう卒業生はというと,まったくの個人対応です。すべて自分でします。昨秋も受験用の調査書の交付申請に来た懐かしい顔に多く会いました。偶然に試験会場が同じになることがあります。そんな時は,少し照れくさそうです。
 卒業生諸君,この一年の取り組みの成果をいかんなく発揮してください。

 何年か前のことですが,京都府立医科大学が会場だった時,大学1年生の卒業生が後輩たちの応援に来てくれたことがあります。みぞれまじりの雪の降る寒い朝でした。
 この生徒は小さい時から子どもが好きで,幼稚園の先生か小児科の先生になりたいと思っていました。高校に入ってからもその思いを持ちつつ,しかし,しだいに別の進路を考えるようになっていきました。高校3年生の夏,思うように勉強がはかどらないで苦しんでいたときに,自分が何をしたかったのかということをあらためて考え直してみて,そのときに,医療に携わりたいという思いを新たにしたそうです。高3の秋,彼女は担任にその旨を伝えました。意志の強さを受け取った担任は,「それじゃあ,がんばってみるか」。

 一概には言えないだろうと思われるかも知れませんが,どういう生徒が合格しているかというと,次の7項目(順不同)に数多く該当する生徒です。
○学ぶことが好きで,多くのことに疑問をもつ
○いろいろなことに興味をもって取り組む,取り組もうとする
○楽しいことも楽しくないことも,なぜそうなのかを言語化できる,言語化しようとする
○よかったことを素直に喜べる,よくないことを他人のせいにしない
○自分の強みと弱みを知っている,知ろうとしている
○他人と一緒に楽しむ,楽しもうとする
○将来への志をもっている,もとうとしている

 簡単に言うと,「自分でやってみる」,「むやみに頼らない」ということになるでしょうか。これは塾や予備校に頼っているだけではだめだし,残念ながら,実は学校に頼っているだけでもだめだということです。
 なるほど,上の7項目に多く該当するような生徒なら合格するだろうが,そうでない生徒はどうするのか,と思われる方もいらっしゃるでしょう。そうですね,だからこそ「教育」が重要になります。
 堀川は「自立する十八歳」を育てることをめざしていますが,それは,近い話で言えば大学合格にもつながるものです。生徒が学ぶことで,周囲からの視点に言い換えれば,学ぼうとするきっかけを用意することで,さらに言うと,内発を促す外発をしかけることで,「自立する十八歳」を育てることができる,と私たちは考えています。まだまだ十分ではありませんが,生徒たちが近い進路にも,遠い進路にも,あるいは眼前の課題にも,自ら立ち向かっていく力を身につけてくれることを願って取り組んでいます。

 昨年末,医師になりたいという希望をもっている生徒が少し悩んでいる,と担任から聞きました。会ってみたら,小児科医になりたいとのこと。ふと,この子には彼女の話がいいかもしれないと思いました。先ほど紹介した医大生は,すでに研修医になっています。連絡をしたら,「ええっ! 私で役に立つでしょうか。うーん,ともかく伺います。でも時間がなかなか約束できなくって」。
 はたしてその当日,急患が入ったということで,遅刻する旨の電話がありました。会議室で待っている3年生のところに行ったら,本を開いて勉強していました。
 「少し遅れるそうです。医者は大変やね。悪いけど待っていてください」
 「はい」
 しばらくして,医者の卵の到着。寒いのに上気しています。「遅れてすみません」。その後1時間半ほど話してくれました。時折,廊下まで笑い声が聞こえていました。
 終わった後の立ち話。
 「どうでしたか?」
 「ありがとうございました。とても参考になりました」
 「えー,ほんと? 私ばっかりしゃべって,ごめんね」
 「いいえ」
 「この人は高校時代も思ったことをどんどん言う人やった。校則のコートの色がおかしいと言ったことも」
 「あれはおかしかったですよ。だって黒と紺はいいけど,グレーがだめやとか」
 「だから,その通りだと思ったからすぐに変更したやんか」

 その後,進路部長も交えて近所で食事をしました。
 「まじめな子ですね。とってもいい感じ。ところで先生,私いろいろ言いましたけど,結局,小児科には進まないんですよ」
 「どうして?」
 「小児科って,内科中の内科なんです。診察して検査して総合的に診療計画を立てる。そういう仕事は,本当に頭のいい人がやるべきなんです。私はそんなに頭がよくないし。悩みました」
 開けっぴろげに話してくれる表情に,悩みを何とか乗り越えた人の静かな落ち着きを感じました。
 「小児科医が少ないと言いますが,私の同期でも結構多くの人がめざすんです。でもぶち当たる壁の一つが親です。学校でもモンスターとかと言うでしょ。病院でもそうなんですよ。その対応に参ってしまう人が出てしまう。でも私は平気なんです。まあそりゃあ自分の子どもが病気なら,親は必死になるわなって思えますし,そういう親と話すのも苦にならないですから」
 「子どもは好きやけど,でも内科には向いていないように思うし,一時は医者をやめようと思ったこともありました」
 「他にもいろいろあって,1年くらいは死んだみたいになっていました。そんな中で,研修でやった外科の手術が結構得意で。私,家庭科が好きだったんですよ。裁縫とか料理とか得意で。手先が器用なんです。自信もあります。まだまだ技術を上げる必要は当然ありますが,子どもを主として診る形成外科医になりたいと思うようになりました。それから生き返って,必死で勉強して,ここに行きたいと思う病院に採用されたので,来年からそっちへ行くことになりました。子どもが怪我したり,生れつき何か障害があったりして外科手術をしないといけないとなると,子どもももちろんですが,親御さんもすごく心配じゃないですか。そういうときに役に立てる医師になりたいって思います。やっと自分の役立つ場所が見つけられて」
 一気に話す彼女を見ていると,高校3年生の7月,雨の西京極球場(現在の「わかさスタジアム」)のスタンドで,傘もささず柵にしがみつき,ずぶぬれになって同級生の応援をしていた姿が浮かびました。あの子が,こんなに大きくなった。
 「そうか,自分の場所を見つけたか」
 「はい,やっと」
 そう言ってサラダをほおばる彼女に,
 「ところで,君さっきからずっと話してくれてるけど,後輩へのアドバイスも長かったし,そんなに話し続けて疲れない?」
 「疲れますよお。眼の下なんかクマができてるし」

 今年は元旦から多くの神社仏閣へお参りしました。数多く祈りました。すべての誠実ないのちに,この大地に,幸いがもたらされますよう。

                      36号(2012.01.10)……荒瀬克己

グー・チョキ・パー

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昨年12月27日の,夕日を受けた富士。
この日,中教審高等学校教育部会で堀川の取り組みを紹介しました。
いつもながら,意余って力足らず。
その帰り,トンネルを抜けるとほのかにオレンジ色のかかった富士。
あわてて撮りましたので少し傾いていますが,いつも,富士は実に大きい。
  冠雪の富士越えていく鳥もあるべし  宜礼



 新しい年が明けました。
 今年は年賀状を一枚も書けていません。
 この場を借りて,早々にお送りいただいた皆さまに非礼をお詫びします。
 昨年までのご厚誼に感謝するとともに,この後も変わらぬご鞭撻をお願いいたします。

 転勤してきて1年目の教員と新年のあいさつを交わしたら,「もう今日から生徒が学校に来ていますね」と驚きの感想。部活も初練習ですが,自習室や図書館や進路資料室にも生徒が三々五々いて,廊下ではヒサシブリーとかオメデトーとかと,ひとしきり賑やかでした。

 校長室にいると,開け放した扉の前を通る教員たちが入ってきて,オメデトウゴザイマス,今年モドウゾヨロシクオ願イシマス。私も立ち上がって,ヨロシクオ願イシマス。
 進路部長がやってきて,しばらく話しました。これからの堀川のことやキャリア教育のことなど。お昼時になったので一緒に食事に。帰ってきてもそのまま話が続いて,「では,そろそろ」と退室する彼を見送って廊下に出たら,3年生の女子生徒がふたり。オメデトウゴザイマス。オメデトウゴザイマス。
 進路部長に数学の質問に来て,待っていたようでした。では3分後に,と言われたふたりは横の階段を上がって,自習室に行くのかと思いきや,そのまま階段の途中に立ったまま。ふと,じゃんけんをして勝ったほうが勝ち方の数だけ段を上がるゲームを思い出しました。
 それを話すと,
 「やりましたよ,よく」
 「グーはグ・リ・コで3段,チョキはチ・ヨ・コ・レ・エ・トで6段,パーはパ・イ・ナ・ツ・プ・ルで6段やったよね」
 「チョキかパーで勝たないと損やね」
 「でもグーでこまめに稼ぐことも大事やし」
 一緒に盛り上がっていると,進路部長が,「それ,どれを出すのがよいかという問題が東大入試にありましたよ」。
 すぐに問題を見せてくれました。

 1992年前期の理系の6番。
 A,Bの二人がじゃんけんをして,グーで勝てば3歩,チョキで勝てば5歩,パーで勝てば6歩進む遊びをしている。1回のじゃんけんでAの進む歩数からBの進む歩数を引いた値の期待値をEとする。
(1)Bがグー,チョキ,パーを出す確率がすべて等しいとする。Aがどのような確率でグー,チョキ,パーを出すならば,Eの値は最大となるか。
(2)省略(こちらは難問)

 「ええー! チョキはチ・ヨ・コ・レ・エ・トで6つなんとちがうの?」
 「チョ・コ・レ・エ・ト?」
 「チ・ヨ・コ・レー・ト?」
 進路部長から教わった私が,「東京では数え方が違うということやね。では解説しよう。つまりこの場合,答えは全部チョキ。なぜかと言うと,チョキでグーに勝ったら,(と言ってしまって)あれ? どういうこと? わからなくなった」。
 すかさず進路部長,「あとは自分で考えろ,ということですね」。
 生徒たちが上を向いて思案顔。そして笑って,
 「あ,そうか!」
 明るい声で,
 「先生,今度じゃんけんゲームしませんか」
 「いいね,5階まで使ってやろう。でも手が見えるかなあ」
 「そうか,相当差がついたら無理ですね」
 見上げる仕草に,子どもの無邪気さ。

 ふたりの内のひとりは,夏に別の生徒と一緒に明かりを消した進路資料室に座っていたことがありました。何をしているのかと尋ねると,
 「節電中です」
 「暗いと目が悪くなりますよ」
 「心の節電です」
 「え?」
 「ちょっと,いろいろと,ありまして」
 「電気は節約しましょうということだけど,心は節電しないほうがいいよ」
 「はい」
 思いが交錯する時をいくつも重ねて,生徒たちは大きくなっていきます。

 今日は薄暗く,寒さは厳しく,風は強く,さっきは雪が斜めに降っていました。
 明日は自然科学部を中心とした,希望者によるSSHフィールドワーク。舞鶴にある京都大学フィールド科学教育センター(舞鶴水産実験所)での研修と舞鶴引揚記念館の見学があります。天候が心配です。
 「8時に出発なので,7時半ごろに最終判断をします。舞鶴に電話をしたら,いまはみぞれ。本格的な冬将軍ではないようです」。
 みんな,気をつけて。

 2012年が始まりました。しかし,2011年が終わったわけではありません。変わることなく,この国に住む人間の叡智と誠実が厳しく問われています。
 明日のことを考え,今日を生きていくことの,切ないほどの大切さ。
 生徒たちと,教職員と,そのことを胸に刻んで,日々を重ねていきたいと思います。

                      35号(2012.01.04)……荒瀬克己
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行事予定
3/31 PSTなし
4/5 新1年登校日(クラス発表・制服頒布・学習状況テスト等)
京都市立堀川高等学校
〒604-8254
京都市中京区東堀川通錦小路上ル四坊堀川町622-2
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FAX:075-211-8975
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