京都市立学校・幼稚園
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“May I help you?”を日本語で

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月蝕の翌々日。出張からの帰りに地下鉄から出てきてふと見たら,東の空に雲をまとって月が昇っていました。にじんだように見えるのは,私の技術のつたなさゆえです。



 「耳が聞こえないと何に困ると思いますか?」
 何人かの教職員が答えます。
 「それも近いけど,聴覚に障害があると困るのはコミュニケーションです。一方,私のように目が見えないと,情報が入って来ません。人間が生きていくための情報は80パーセントぐらいが目によります。文字情報が入らないのは,移動も含めて本当に困ります」

 「視覚障害者と話すときは,うなずいてもわかりませんよ。『はい』とか『いいえ』とかとはっきり言ってください」

 「自分が見えていたころは,目の不自由な人への接し方がわからず,かわいそうな人とか不幸な人とかとしか思えませんでした」

 「知らなかったら考えられない。ぜひ知ってください」

 「網膜色素変性症が悪化して,私は40歳で見えなくなりました。自分の手を目に近づけてまだ見えているという状態がだんだんと見えなくなっていった。いまどんな感じかというと,全部灰色です。目が覚めても,朝か夜かはわからない。全部灰色。それまで勤めていた児童養護施設を退職し,京都ライトハウスで中途失明者生活訓練を受けました」

 松永信也(まつながのぶや)さんのお話に引き込まれました。松永さんは,京都府視覚障害者協会副会長,京都市社会福祉審議会委員で,『風になってください』(2004年,法蔵館),『「見えない」世界で生きること』(2008年,角川学芸)という本も出しておられます。管理職研修でお話を聞いた副校長と教頭が,ぜひ校内研修にということで,先週あった教職員人権研修会にお招きしました。

 「駅のプラットホームを歩くのは怖い。見えないから階段の場所がわからない。横断歩道も,音が鳴っても上からで,まっすぐには歩きづらい。音が鳴らない横断歩道では,車の音で見当をつけて歩いています」

 「電車の中でも,バスの中でも,空いている席を教えてください。目をつぶって立ってみたらわかるはずですが,バランスをとるのにとても疲れますし,危ないです」

 「どうか声をかけてください。白い杖を持っている人に。『お手伝いしましょうか』と。数少ないけれど盲導犬を連れている人にも。盲導犬は万能ではない。コンビニへ行けと言っても連れて行ってはくれません」

 「私も見えていたときには声をかけられませんでした。断られたらどうしようと思ったから。声をかけたのに,もしも断る人がいたら,どうか『お気をつけて』と言ってください」

 副校長は管理職研修で,「かけてくれる声は英語のほうが多い」と聞いたそうです。講演の中でも松永さんは,駅のプラットホームに安全柵をつけることも大事だが,人の声が聞きたいとおっしゃっていました。
 “May I help you?”この言葉を,ぜひ日本語で。

 「あるとき,生まれつき見えない女性が私に言いました。『松永さんは何色が好き?』 私は見えていたから色がわかるけど,この人にはわからないはずだから,どう答えたらよいかとためらっていると,『あのね,私の好きな色はピンク。小さいときに服を買ってもらって,みんなが可愛い,可愛いって言ってくれて,その色がピンクって聞いたから,ピンクがいちばん好き。だから,私の持ち物はピンクが多いんや』。その女性のうれしそうな声」

 「花見に行くんですよ。花びらに手を触れさせてもらって,ああ桜や,柔らかい花びらやって,うれしくて」

 「見えなくなるのはつらいけど,仕方がないとあきらめられる。あきらめるときは見えないことに向かい合うときです。見えないということを受けとめる。しかし,社会に参加できないのはとても悲しい」

 昨日は東京に行っていました。東京駅から丸ノ内線で霞が関へ。丸ノ内線はワンマン運転しているためか,早くに安全柵が設置されたように思います。
 東京の地下鉄は案内表示が行き届いています。改札口までの距離表示があちらこちらに。案内表示も途切れることなく,目的の場所まで導いてくれます。少し前になりますが,駅や地下通路に,「立ち止まって見ていただけないのが誇りです」といったようなポスターがありました。まさにそのとおり。一瞬で視覚に訴える見事さ。立ち止まらずに歩けます。このことは掛け値なしにすばらしい。
 東京の生活に慣れた人が京都に来ると困るかも知れません。東京の人のみならず,地下鉄京都駅で降りて南口から近鉄京都駅に行こうとして,迷子になった人がいます。これは相当に「改善の余地あり」です。
 東京でも京都でも,駅や町の表示はとても重要ですが,もちろんそれだけでは十分ではありません。それを補完する,いや,町を人間の住む場所にする,そのためには,人間の心や言葉が欠かせません。
 松永さんのお話を聞いていろいろと思いがめぐりました。

 人があたりまえに生きるというのはどういうことか。
 そのために,社会はどうあることが求められるのか。
 そこで人はどうすることが求められるのか。

 東京駅の照明がずいぶん明るくなりました。まだすべてが点いているわけではありませんが,最近のことでしょうか,9か月前に比べるといろいろな光が戻ってきました。
 これが被災地の復旧に比例しているのならば,と思います。

 今朝5時過ぎ,外に出たら西の空のまだ高いところに皓々(こうこう)と冬の月。北の空を見ましたが,月光が空に映えて星は見えませんでした。
 11月ごろには,ひっくり返った北斗七星がありました。そこからこぼれ落ちたような,小さなしずく。
 北極星。
 この星を見ると,背筋がしゃんとするような気がします。

                      32号(2011.12.13)……荒瀬克己

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