最新更新日:2024/06/11 | |
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アートと遺産:京都から世界への架け橋2023年時点での世界遺産総数(文化遺産、自然遺産、複合遺産の3種類がある)は1199件、その内京都には16社寺1城の計17件あります。その世界遺産を決めているのはユネスコ、つまり国際連合教育科学文化機関であり、年に1回開催されるユネスコの政府間委員会で採択されています。 2024年、登録30周年を迎える世界遺産「古都京都の文化財」を擁する京都市は、2017年に地球環境問題の一つとして文化観光の質の向上を盛り込んだ「京都宣言」を採択するなど、世界遺産を有する都市として弛みない先進的な取り組みを続けています。このシンポジウムは、そのような京都の地で、世界遺産という制度が文化遺産保護に果たしてきた功績を辿るとともに、その発展の中で日本が果たしてきた、あるいは今後果たすべき役割についてあらためて考え、世界遺産のこれまでとこれからを見つめる機会にするためのものでした。 このシンポジウムに参加をして、私自身、再確認したことがありました。その中の一つを紹介します。私はこれまで文化芸術に携わる人として、また校長として、皆さんに機会があるたびに、多様性を認め、他者との対話を通じながら影響を受け、クリエイティビティやイノベーションを起こしていってほしいと伝えてきました。私自身も職場で、或いは様々な場において他者との対話を大切にして、できる限り他者の考えを聞き、また自分の考えを深めていくということに努めています。しかし他者の意見を耳にすることや受け入れることは容易ではないですが、できるだけ相手に対する時は先入観や感情は横に置いて、白紙の状態で対話をするようにしています。すると今まで見えていなかったことが見えてきたり、違うアイデアが浮かんでくることが多々あるのです。皆さんもそんな経験をしたことはたくさんあるでしょう。 このシンポジウムの中で、エルネスト・オットーネ(ユネスコ文化担当事務局長補)氏は、遺産の保存や保全を考える時、多様な考え方が必要であると語っていました。それは、欧米中心の国からの発案で1972年に採択された世界遺産条約は1990年代に入り、それまでの優品主義を改めて多様性を尊重する方向に舵を切ろうとしていました。そのような状況の中、1992年の日本の加盟(条約批准)と1994年の奈良で行われた国際会議での「オーセンティシティに関する奈良ドキュメント」は、保存に関わる人で知らない人はいないぐらいの影響力を持つことになるのです。それまで多くの世界遺産は欧米を中心に登録をされていましたが、これ以降欧米以外の国にも光が当たることになったのです。そこには欧米至上主義の考えかただけでない考え方が入ることによって、新たな見解が生まれ、制度の見直しにつながったのです。グローバル社会を迎えた今、グローバルな視点とローカルな視点の両方の見方・考え方が必要不可欠な世界となっています。私たちは日本の中でも非常に稀で貴重な文化を持つ京都(近郊含む)に住んでいます。その京都は、日本の文化を代表するような重要な文化財があります。そして、日本をはじめ世界各地の文化の情報も多く手に入れることができます。15歳からの多感な時期に、美術工芸を専門に学ぶ皆さんはにとっては、この京都はとても素晴らしい環境が揃っており、感性を磨く場としては最高な土地です。そしてグローカルな考え方を身につけるためには最高のところです。だからこそ、多様性を認め合うため、自分たちが住む京都をもっと知り、自分のアイデンティティをしっかり知ることが、これからの社会において重要なアイテムになること間違いありません。 オットーネ氏も語っていましたが、日本はユネスコにおいて非常に大きな役割を担っています(分担金も日本が国連加盟国中、米国及び中国に次ぎ第3位であり、2022年においては2億3080万ドルを負担(勿論、私たち日本国民の税金から支払われているのです)しています)。世界遺産の保存・修復などに大きな影響を与えている国の一つなのです。日本はもっと世界の中で存在感を示しても良いはずなのではないでしょうか。私たちは自信を持って、類い稀な日本の文化遺産を守り、かつ文化芸術を継承し、また新たな文化や芸術を生み出していくべきです。そして、皆さんには文化による世界平和の実現を希求した京都市の「世界文化自由都市宣言」の実現に向けて高い理想を持った青年になってほしいと願うばかりです。 2024年1月22日 校長 名和野新吾 |
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