最新更新日:2024/05/31 | |
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第41回入学式 式辞
鴨川河畔の桜が満開となり、鴨川の明るい水音が聞こえる今日の佳き日、保護者の皆様のご臨席を賜り、令和2年度京都市立銅駝美術工芸高等学校、第41回入学式を挙行できますことは、誠に大きな喜びであり、本校教職員を代表いたしまして、心よりお礼申し上げます。
ただ今、92名の新入生の入学を許可いたしました。まずは、新入生の皆さん、ご入学、おめでとうございます。教職員一同、皆さんを本校の生徒として大切にお迎えします。 保護者の皆様、本日はお子様のご入学、誠におめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。お子様が本校を志望されるにあたり、保護者の皆様が本校の教育をご理解いただき、進路実現を目指すお子様をご入学までお励ましいただきましたことに感謝申し上げます。これからの3年間、教職員一同、力を尽くしてお子様の成長を支援してまいります。どうかご理解、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。 本校は、明治13年、1880年に「京都府画学校」として創立され今年度で140周年を迎えます。そして1980年現校地で銅駝美術工芸高校として開校してから41回目の入学生を迎えることとなりました。長い歴史と伝統をもつ本校を卒業された諸先輩方は、美術界、産業界、教育界ほか、各方面で活躍されておられます。皆さんは、本日、晴れてこの歴史と伝統のある学校の生徒になりました。銅駝美術工芸高校の生徒として、しっかりとした自覚と誇りをもって、志高く学習に取り組んでください。 最近読み終えた本にこんな言葉がありました。「画家は自分の好きなもの、愛しているものをよく絵に描くんです。愛しているところに美があるからなんです。愛情と美は,はなれることができません」これは画家の猪熊源一郎さんの言葉です。『猪熊源一郎のおもちゃ箱』という本には、作品紹介とともに猪熊源一郎さんの画家としての生涯について書かれていますが、猪熊さんの住まいにあったお気に入りの家具のほか、おもちゃやガラス玉、ビンや石ころなどの小物、パレットから捨てた絵の具の塊まで、猪熊さんが「可愛い友であり、宝物である」と愛情を注ぐコレクションの写真も掲載されています。「美は何気なき所にも静かに存在する」猪熊さんはそう言いました。私は、この学校に来て、生徒の作品を見る度に、こんな場所を、こんなものを、こんな風に表現できるのかと驚くことばかりでした。私はこれまでたくさんものを見ながら、本当の意味でしっかりものを観ずに、美しいと感じる機会を逃してきたのだろうと思いました。ものをよく観れば、心が揺さぶられ、様々な不思議や感動が生まれます。猪熊さんは、東京美術学校時代、恩師・藤島武二さんに何度も「デッサンが悪い」と言われました。その言葉を受けて猪熊さんはずっと悩みながらこのような考えに至りました。「絵画とはそのものを描くのではなく、そのことを描くものなのではないだろうか」。そうして猪熊さんは、対象そのものをしっかり見つめ根本から理解し、しっかりと自分のものにする、そのことをずっと大切にしていたそうです。 本校の学校教育目標は ・多様なものごとに触れ 美しさや本質を見出す 「感じる心」を豊かにする ・主体的に取り組み 広い視野で柔軟に深く思考できる 「考える力」を伸ばす ・幅広い美術の知識や技能を学び 自分の思いや考えを形にする 「表現する力」を高める の3つを掲げています。よくものを「観ること」「感じること」「考えること」「表現すること」は美術専門科目に限らず、すべての学びで大切なことです。どうか、皆さんは本校でこの営みを弛まず重ね、深く幅広い力を身につけてほしいと願っています。 ところで、「美はどこにも隠れている」という猪熊さんは、「今あなたたちの身の回りにある常識的なことに、もう一度目を向けて考えて欲しい。」と言いました。自分自身が今までの経験や知識だけで判断していることをもう一度見直す、それですべてを判断しない、そのために私たちは学びます。以前、鴨川に架かる橋の下の水たまりを描いた生徒がいました。橋の下は昏い、そこにある水たまりなど気にかけたこともない私は、その水たまりに映る空を美しいと感じたと言う生徒の話を聞いて、自分の50数年の「当たり前」を覆されました。教育学者の汐見稔幸さんは著書の中で、「学ぶ」ことによって「偏見や思い込みから解放される」と書いています。人間は、学ぶことで新しい世界を知り、不安や恐怖を解消し、諍いや対立を解消してきました。「偏見や思い込みから解放される」ということは、自分のものの見方や考え方をこれまでよりももっと自由にするということです。皆さんは、美術に強い興味・関心をもち、ものを制作することに大きな意欲をもって入学してきたと思います。しかし本校は、美術だけを学ぶ学校ではありません。普通科の科目も含めて本校で提供するあらゆる科目、探究の時間、特別活動、すべの学びの時間を大切にしてください。これまでの好き嫌い、できるできないという感覚から離れて、新鮮な気持ちで向き合ってください。「学ぶ」ということは、単に知識の量を増やすこと、技術が上達することだけではありません。問題の答えを見つけるために学ぶというよりも、自分の五感を働かせ、問いや疑問をもつために学んでください。 結びに、皆さんは一人ひとりかけがえのない存在です。そしてかけがえのない生徒が270人この学校で学びます。学校は、自分とは異なる多様な他者を知るところ、多様な他者を発見するところです。かけがえのない自分とかけがえのない他者の、存在と自由を共に認め合う、高めあうことを学んでください。 今、私たちは、これまで経験しなかったような社会状況の中にいます。人工頭脳AIが発達し人間が時間をかけて考えなくても素早く答えが出せる時代でありながら、簡単に解決できない問題に直面しています。「学校とは何か、学校でできることは何か、学校でこそするべきことは何か」ということも問われています。猪熊源一郎さんは、「子どもは希望であり、喜びであり、創造力である」と言いました。私は子どもが学ぶ学校は「希望を創るところ」でありたいと考えています。今日から始まる銅駝での3年間、本校が「希望を創るところ」になるよう、皆さんとともに心を通わせ力を重ねていきたい、そのことを呼びかけ、式辞といたします。 令和2年4月8日 京都市立銅駝美術工芸高等学校長 吉田 功 |
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