最新更新日:2024/09/26 | |
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『前例がなければつくればいい』
開演 : 11月14日(水)13:30〜 於)蜂ヶ岡中体育館
ボーイソプラノを思わせる澄んだ「アベ・マリア」が隅々にまで響いていく。 夏の高い空を泳ぐカモメのように,力強く,伸びやかに。 息継ぎのとき,わずかに苦しげになった。そののどには親指ほどの穴が開き, 空気を送る管が付いている。関西弁でくったくなく笑った。 「気管切開したら,きれいな声に生まれ変わると思ったんやけど!」 京都の女子大で声楽を専攻していた時,原因不明の病気にかかり,車いすの 生活に。翌夏,今度は無呼吸発作に見舞われた。 気管切開し,人口呼吸器を使わなければ命が危ない。しかし,元の声は失わ れる。 「歩かれへんうえに声まで?」。半年,泣いた。 踏ん切りをつけてくれたのは,命あってこその歌という友の言葉。 手術してのどに器具を付けた。1週間かけて出した声は,懐かしかった。希望 がわいた。 「歌うなんて聞いたことがない」と言う医者に, 「前例がないだけやろ」と言い返した。 息継ぎを増やし,器具に工夫を凝らし,1年かけて自分の声を追い続けた。 苦悩から救われるために祈る歌曲を口ずさみ続けた。 音楽教師の母の影響で,歌は生活の一部だった。ただ好きだから歌っている のに,今「勇気をもらった」と言ってくれるひとがいる。 (朝日新聞2010年6月24日付朝刊「ひと」欄から) |
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