京都市立学校・幼稚園
最新更新日:2024/04/25
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花から華へ


3月2日(月)午前10時から、本校アリーナにて、第67回卒業証書授与式を挙行いたしました。春の足音が聞こえるこの日に、普通科82名、人間探究科56名、自然探究科112名が卒業式に臨みました。ご多用の中ご臨席くださった関係各位をはじめ、本校を支え、応援して下さる皆様に心より感謝申し上げ、式辞の概要をお伝えします。


14期生の皆さんに,豊かな人生を歩んでいくために必要な能力とは何か。
3つのテーマでお話ししたい。

(1)本校校訓の一つ「友愛」の現代的に解釈と異質な他者との付き合い
 1月の激励会の際に宿題にしていたシャルリ・デュブレの事件とフランス革命のスローガン「リベルテ(自由),エガリテ(平等),フラテルニテ」のフラテルニテを博愛と翻訳することについて,現代のフランスをはじめ西ヨーロッパ諸国が国益として目指す「多文化社会」,ダイバーシティの課題に関わる課題だと考えられるのではないか。「フラテルニテ」ということばは,現代のフランス人にとっても難解であるため,大統領の演説などでも「レスペ・オ・ゾートル」と言い換えられることが多いそうです。「博愛」イコール「仲良くすること」ではなく,「異質な他者を尊重すること」というのが,指導者の意思ではないか。「仲良くする」とか「同じ心を持つ」などという必要はなく,極端に言えば「惜しみ合ったまま」でもかまわないということです。わが国の「同質性の信仰」ともいえる文化に対し,人々の間に多様性や対立があることを前提とし,「社会全体のルールづくり」についても「自由の中での約束・契約」についても,異質な人々が冷静・建設的に議論を行い,相手を打ち負かす技術とは違った,集団意思形成や当事者問合意形成を実現していくために必要な力も大切なのではないか。

(2)胆力と言われる力について
 太宰治が『惜別』にも書いた,魯迅の「藤野先生」は,今のわが国と近隣諸国との諸課題を考えるうえで非常に考えさせられる作品です。この作品には魯迅が医学の道を捨て作家になることを決意した若き日の原点のようなものが語られています。「医学ではなく,文学運動を通じた中国の覚醒」へと向かい,日本の中国への侵攻を批判し,中国の覚醒と「抗日運動」をリードする魯迅にして,「夜ごと,仕事に疲れてなまけたくなるとき,仰いで灯火のなかに,彼の黒い,痩せた,今にも抑揚のひどい口調で語り出しそうな頗を眺めやると,たちまち私は良心を発し,かつ男気を加えられる」と机の前に藤野先生の写真を貼ったと書いています。決して温厚で篤実な人というわけではなかったようですが,それでも貧乏な患者からは診療費をとらなかったことといい,雨の中を「笠とゴザを着て往診の途中に倒れて,翌朝亡くなった」という話が,この人の人生を象徴するものだと思います。かつてわが国には,こういう人物が数多く存在していたのです。周辺の時代の空気が,日清戦争から日露戦争に向かい,中国を蔑視している雰囲気の中での,本人の記憶にも残らないほどの些細な判断に,民族の理性や品格が滲み出るのであり,それ胆識というのではないかと思います。

(3)効率性や失敗しない「処理能力の速い脳」と「強い脳」についてとまとめ
 「ミスター半導体」といわれた西澤潤一先生は東北大学の工学部1年生で終戦を迎え,これからのわが国が食べて,生きていくためには,製造業,それもよそでは絶対につくられていないものを創造するのが工学部の使命であり,わが国を自立させるためにそれしかないと,真剣に考えられたそうです。それにいたるまでの研究生活は困難の連続で,前例のない研究でしたから潤沢な研究費もなく,最低条件で常に研究を続けてきた結果の発明だったようです。曰く,振り返るとそういった過酷な環境がかえってよかったと。高価な実験装置が購入できないので自分で造るしかない。しかし企業と同じものをつくっていては勝負にならない。新しい原理,新しい機構を開発しなければならない環境にいたことが独創的な研究につながったとおっしゃる。このいわば「強い頭」はどのように形成されるのでしょうか。基礎研究でも応用的な研究でも,裏付けを取り,常識と言われていることでも自分の頭できちんと考え,自ら検証し,さらに研究を積み重ねる。こういった愚直な仕事の基礎があって「強い頭」が形成され,物事をとことん突き詰めて考え,常にあきらめず,自分を見失わない。「強い頭」は独創的な研究に必要なだけではなく,探究的で豊かな人生を送るためにも大切なことだと結論付けておられます。
 立花隆は,その著『東大生はバカになったか』で「教養とは何かを抽象的に論ずるならば,それは『人類社会の遺産相続』の問題であるということができます。そして大学の使命というのは,そのような遺産相続人を時間をかけて育てることであり,学生の側からすれば,その遺産を相続するに足る資格を大学の教育を通じて得るということです」と述べています。ここで考えてほしいのは,現実的に「知的な遺産相続」とは,生身の人間として生身の人間に出会うことによって啓発され触発されるものではないかということです。つまり,誰と出会うかが決定的なのではないかと。評論とと現実のギャップについて,若者は大人の判断の背後にある欺瞞をじっと見抜こうとしているはずです。人間の力と学問の力がこれまで歴史を推し進めてきたとするなら,歴史的転換点に立たされた世界の状況と学問もまた,人類史の発展を阻止している国際的規模での諸関係,世界的な諸要因を否定し,飛躍的展開を遂げるのが人類の新たな英知でなければなりません。歴史の歯車を前に推し進めるとき,学問はその真価を発揮することと思います。若者らしい知的欲求と人類の行方を思う熱い心は,炎となり,その実現の志を胸に,若者たちは巣立って行きます。転換期世界の今日,若者は悩み,叫び,走り,翔ぼうとしています。つぼみを咲かせようとしています。この若者たちの熱い思いに応えられる高校・大学教育が求められており,私ども教育者もまた,これに応えられなければなりません。これが探究に未来の若者の英知と志を育むことに意欲をかきたてられる所以です。学び続け,学び直す探究の旅,そのことにより,若者は自らの情熱の方向と生き方を学び,知的訓練を通して新しい知的世界を切り開いていくことと確信しております。それは現代史を担う若者と学問の歴史的使命のように思えてなりません。
花の14期生のみなさん,華のある探究の旅へ

平成27年3月2日 第67回卒業式 京都市立堀川高等学校長 恩田 徹


上:14期生が入場
中:皆勤賞授与
下:卒業生の言葉
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