京都市立学校・幼稚園
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1年生対象の講演会を行いました!

 7月9日(土)土曜活用講座終了後の11時50分から,7階大講義室にて,1年生全員を対象に特別講演会を行いました。
 講師は,「芸術認知科学」が御専門の齋藤亜矢先生(京都造形芸術大学文明哲学研究所准教授)で,「サイエンスの視点,アートの視点」という演題でお話し下さいました。

 齋藤先生は「進化の過程で,ヒトはなぜ絵を描くようになったのか」「子どもの絵はどのように発達するのか」「写生はなぜむずかしいのか」「アートに感動するのはなぜ?」「表現すると気持ちがすっきりするのはなぜ?」といったテーマで御研究をなさっていて,今日の御講演では,「ヒトはなぜ絵を描くのか」という点からお話を始めて下さいました。
 
 ヒトには,文字のない文化もありますが,絵などの芸術がない文化は,ほぼ皆無といっていいそうです。「描く」という行為は,キリンの長い首やクジャクの飾り羽のように,生存や繁殖に直接結びつきそうもないのに,なぜなのでしょうか。
 ヒトはなぜ絵を描くのか?・・・描く心の起源をさぐるために,齋藤先生は,進化の隣人(ヒトとチンパンジーのゲノムDNAの違いはわずか1〜2%で,ウマとシマウマの違いよりも近いそうです。)であるチンパンジーとヒト幼児との描画行動の比較をなさったそうです。
 その中で,チンパンジー個々に“画風”の違いがあること,ヒトの子どもの絵は,成長に伴って“なぐりがき”から“表象画”に発達していくことなどが分かりました。更にさまざまな実験を行う中で,チンパンジーに「シンボルを扱う能力」があり,個体の認識(ヒトやチンパンジーの写真を見て,誰かわかる),数字の認識(物の数や数の大小・順番がわかる),色と数の認識(11種の色と,対応する漢字が分かる),単語の組合せ(「5本」の「赤い」「鉛筆」など,組合せ概念がわかる)といった力はあるが,「何かを表した絵」を描かないことが分かりました。
 さらに「なぜ?」を突き詰めるため,部分が欠落した絵への描画実験をしたところ,「チンパンジーは運動調整能力があっても,補完しない」「ヒトは運動調整能力が未熟でも補完しようとする」ことが分かりました。そして,この「補完する/しない」の分かれ目は,「今ここに『ない』ものをイメージして補う想像力」の有無にあるのではないか,と,いくつかの例(アルタミラの洞窟壁画で,壁面の凹凸や亀裂などの形状を利用して今ここにないイメージを想起して「ない」ものを補っている例,また,幼児の描画行動でも,描線に物のイメージを見立てて線や円などを加えて線路やアンパンマンを描く例など)を示しながらお話し下さいました。
 そして,このヒトならではの認知的な特徴である「描線に物のイメージを見立てる想像力」が芸術を生み出したヒトの基盤ではないか,と考えを進められ,「見えない獲物の動きを読みながら行われる計画的な狩猟」「完成形をイメージしながら進められる石器の製作」などといったことや,「言葉の獲得」によって,「常に“何か”として見ようとする」「一次的な視覚情報を分類してシンボルに置き換える」想像力・思考が獲得された,とお話し下さいました。
 更に,点描のような曖昧な画像を示され,生徒に「何に見えますか」と問い掛けられました。実は,この中に“ある動物”(伏せておきます)の姿が見えるのですが,これを例に,ヒトの視覚認識には「後頭葉から側頭葉に至る腹側経路(モノが何であるかの情報処理)」と「後頭葉から頭頂葉に至る背側経路(動きや空間の情報処理)」という2つの経路があり,その結果の処理の仕方としては,網膜で感じた光の配列を分析するボトムアップ,知識参照からそれが何かを判断するトップダウンの2つが組み合わさって「何であるのか」を判断しているそうです。ヒトは,見立て・想像を働かせる回路を獲得した代わりに失ったものもあるということで,チンパンジーに見られる「直観像記憶」の実験の映像も流して下さいました。

 最後に,これから文系・理系のコース選択をする皆さんへということで,齋藤先生の研究遍歴と今後に向けてのアドバイスをお話し下さました。

[研究遍歴]
 大学の4年間は「理学部(人類進化論講座)」。ポケットゼミ(1回生でも入れるゼミ)で恩師との出会いがあり,「チンパンジーの1・2歳児の行動発達」を研究。
 大学院修士課程は「医学研究科(人間生態学分野)」。高齢者の認知機能と「うつ」を研究。博士課程は東京藝術大学大学院の「美術研究科(美術解剖学研究室)」。美術の起源(ヒトはなぜ絵を描くのか)を,チンパンジーとヒト幼児の描画行動の比較などを通して研究。修了後は京都大学野生動物研究センター(熊本サンクチュアリ)でチンパンジーの遊びの研究を行い,中部学院大学教育学部を経て,今年4月から現職に就かれました。

[アドバイス]
 大切なのは,自然や現象に目を向け,「!」と感じる力。その「!」をかたちや音にするのがアートであり,「!」から「?」を深めていくのがサイエンス。同じ「!」を追い求めるにしても,「そのメカニズムは?」と考えるなら物理学だし,「ほかの文化ではどうか?」と考えると文化人類学だし,「なぜそう感じるの?」を明らかにするのは認知科学,というように,さまざまな方向・角度から考えていくことが出来る。そして,「!」を応用するのが科学技術。
 アートとは,“物の見え方”を変えるもの。(既成概念をこわし,新たな価値を見出す[想像力])。ぜひ「アートな生き方」をして下さい,と勧めて下さいました。
 そして,締めくくりとして,悩んだときはInput(外を歩いて,いろいろなものを見る,本を手当たり次第に読む)してみたり,Output(自分の好きなもの/ことを書き出してみる,誰かに話してみる)してみたりして下さい。外に出すことで,“頭の風通し”をよくしましょう,と,これから文理選択を控えた生徒たちに呼びかけて下さいました。

生徒の感想です。
・「ヒトはなぜ絵を描くのか」という問いがそもそも素敵だと思った。大変興味深い内容の講演で,もう1回聴きたい!と思った。
・私はやりたいことがコロコロと変わることを今まで自分の悪いところだと考えていたけれど,今日の講演を聴いて,自分のやりたいこと,不思議だと思うことはいっぱいあってもいいんだ,と分かった。もっと社会に目を向けて,「?」や「!」をいっぱい見つけて,いろんなことに興味を持って,いろんなことを頑張って・・・。その上で自分の本当に「やりたいこと」と見つけたいと思った。
・文理選択は,自分にとって人生のターニングポイントになると思う。後悔しない選択ができるよう,視野を広くして考えていきたい。
・西京という,自分のやりたいことやなかなかできないようなことを積極的にやらせてくれる学校に通っているのだから,自分の視野を広げることにつなげられるよう,たくさんのことに自分から挑戦していきたいと思った。


 あっという間の50分間でした。お忙しい中,生徒たちのために御講演下さいました齋藤先生,有り難うございました!

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